その手を離すな

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その手を離すな

「おい、聞いたか?ついに上層の連中が引き離されてしまったらしいぞ」 「ああ、聞いた。外周や下層の連中も次々と引き離されているらしいよ」 「俺たちはそうならないように、しっかり手をつないで結束しとかなきゃな」 「何万年もの間ずっと結束してきたんだ、そう簡単に引き離されてたまるかよ」  俺たちは北極海に浮かぶ氷の塊を構成する水の分子。分子同士がしっかりと手をつなぎ氷を作っているのだ。  しかしここ最近、中心部に居る俺たちには悪い話しか聞こえてこない。 「でもなんでこんなことになったんだろう?」 「難しい話はわからんが、地球が温まってきているらしいよ。俺たちは熱が加わると結束力が弱くなって、しっかりと手をつないでおくことが出来なくなるんだよ」 「ということは、手を離して自由に動ける水になるのか?外の世界に行くのも悪くないと思うしかないか……」 「諦めるなよ。何万年も一緒に居たのに、俺たち離れ離れになるんだぜ。それに俺たちの上で暮らしている白熊たちはどうなるんだよ、俺たちが結束してるから彼等は生活できるんだぜ」  何万年もの長い時間、俺たちはとても寒い世界でしっかりと手をつないできた。しかし地球温暖化の影響でその手を引き離されてしまい仲間が次々と水になって海の中に離散してしまっている。  諦めたくはないが、このままではそう遠くない将来、俺たちが離れ離れになってしまうのは不可避だという話だ。
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