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2.
わたしが見ず知らずの獣人種の男性とルームシェアを始めた背景には、打算的な理由があった。
広々とした設備のわりに格安の家賃もその理由のひとつだし、あとは――とにかく、色々と訳ありなのだ。
そんなわけで、同居する相手についてはさほど興味がなかった。こちらに危害を加えなければどうでも良い。その程度だった。
けれども、このアクシデントをきっかけに、同居人と彼が帰属する種族について興味が芽生えた気がする。当然ながらこのときのわたしは、そのことに気付く余裕などなかったのだが。
シャワーに濡れて毛並みがしぼむにつれ、肉体のシルエットがあらわになる。日頃丸っこく見えるのは密に生えた毛皮のせいであり、その下に隠された体は思っていたほど柔らかそうではない。
筋肉の上にほどよく脂肪の乗った、柔道家かプロレスラーのような骨太な体躯。自堕落な肥満体型とは程遠く、鍛錬とメンテナンスが行き届いていることが一目瞭然だった。
好奇心で視線を向けるわたしなど気に留める様子もなく――むしろ見せたがっているようですらあった――ボディソープを泡立て、濡れた毛並みにわしわしと塗りたくってゆく。爽やかな香料が室内にふわりと満ちた。
まずは首から上だけを泡だらけにして、シャワーで流す。
「ぷはぁ」
瞑っていた目を開き大きく息をついてから、今度は首から下。太い指が、濡れた毛並みを泡だらけにしてゆくのを目で追っていた。白い泡の下、動きに合わせて筋肉が隆起する。分厚い胸や腹。ずんぐりと短くて太い腕や脚。逞しい腰というか尻から突き出た巻き尾は、毛のボリュームがなければ意外と細い。それと、そこそこ立派な――
「ん、なんか気になる?」
にまっと満面に浮かんだ笑顔と目線が合ったときには、色々と手遅れだった。
なにか適当な言い訳がないかと考えているうち、毛並みのところどころに引きつれて治ったような跡があることに気がついた。
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