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 男性としては背が低い部類で、おそらくは160センチあるかないかだろう。  けれども身長のわりに肩幅は広くてガタイがよく、鋭い眼光と相まって荒事に長けた――ともすれば暴力的にすら見て取れる。  それが柴本光義という男の第一印象だった。  二言三言でも話してみれば、実はとても人なつこく、よく笑い世話好きな好人物だとすぐに分かるのだが。  そんな彼は今、生まれ持った暴力性と後天的に磨き上げたであろう社交性のいずれも置き忘れ、オドオドした表情で視線を宙に泳がせている。それはまるで、まったく見込みのないピアノ発表会で舞台に立たされた6歳くらいの男の子のように見えた。 「あ、えっと。鴻、さん。ご飯、もう準備できますから、ね」  今までの饒舌ぶりが嘘のようにたどたどしい声音。宇宙人に誘拐されて中身が入れ替わったのではないかと疑ってしまうのは、近ごろ観た映画の影響なのは間違いない。    少し考えた末、手伝いますかと申し出る。 「あ、それなら冷蔵庫に麦茶が入ってるんで、コップについで、いただけます、か?」  相変わらずのたどたどしい言葉に返事をし、洗いカゴに干してあるタンブラーをふたつ取って、冷蔵庫から出したピッチャーから麦茶を注ぐ。  それから食器。スプーンとサラダ用のフォークをカトラリーに入れてテーブルの上に置く。  そうしているうちに、白いご飯とカレーを盛り付けた器がふたつ、テーブルに置かれる。副菜はヨーグルトのフルーツサラダ。 「よーっし! 早いとこ食っちまおうぜ。じゃなかった、えっと……」  もう、普通にしましょうよ。それより、冷めないうちに食べましょうか。  頑張って格式高い言い回しに直すべく頭を巡らせる柴本氏に、笑いかける。 「おう。そうだな……じゃなかった、ですね」  だから、もういいですってば。笑いながら、わたしと柴本氏は準備を終えたテーブルについた。
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