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「苦手なヤツでも、一緒に風呂入って言葉を交わせばすぐ仲良くなれるものだ。おれたちはそう言われて育ってきました。学校で誰かとケンカしても、夕方に銭湯でそいつと会って、一緒に風呂入って話せば元通りって」
そうらしいですねとわたしが頷くと、柴本氏は少し驚いた顔でこちらを見た。
彼が言うところの裸の付き合い。それは、獣人ならではの風呂事情に理由があると気付いたのは、つい先ほどのことだった。
全身を密な毛に覆われた彼らは、入浴後にはしっかり毛皮を乾かさなければ皮膚病になることもある。
これを防ぐために全身用のブロワーが使われる。けれども工場に置かれる巨大な扇風機に似た形のそれは、その大きさや重さから個人宅や狭いアパートなどに設置するのは難しい場合もあるらしい。検索するうちに行き着いた獣人のための皮膚科や不動産関連のサイトに、そのような記述があった。
そうした背景から、獣人が人口の半数以上を占める河都では、現在でも銭湯や公衆浴場が多数あり、文化の一部として、また地域の社交場としての側面を担い続けている。
そう考えれば、氏が言うところの裸の付き合いも何らおかしなものではない。どちらかが悪いではなく、単に互いの文化の違いを認識していなかったことに端を発するだけのものだ。
そして何より、その大元の原因となったのは自分の事情だけ考えた結果、生活空間を共にする人を避け続けたわたしの行動なのだ。
だから、わたしも謝らなければならない。異なる文化に、何よりあなたを理解しようとしなかったことをどうか許して欲しいと言うと、柴本氏は更に驚いた顔になり
「えっと、その」
目を宙に泳がせた。ややあって、まだ動揺した様子を隠しきれない様子でこちらに向き直り
「だいたい鴻さんの言う通りっす。ああすればすぐ打ち解けられるんじゃないかと思ったんですが……今日、知り合いに話したら文化の違いを考えろって怒られちゃいました」
頭上の三角耳をしんなり垂らしながら言う柴本氏に、もう仲直りしませんかと提案する。
柴本氏は満面に明るい笑みを浮かべて応じてくれた。
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