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6.
「鴻さんさえよければ、だけどさ。出来るときにはこうやって、一緒にメシ食って話さないか? もちろん、仕事とか用事とか色々あるだろうけど、そういうのが無ぇときには一緒に、どうかな? おれ、あんたのこともっと知りたいんだ」
和やかになった食卓で、いつもの口調に戻った柴本氏の申し出に、わたしは一も二もなく頷いた。
ただ、その流れのまま、わたしの今までのことなんて大したことないから、きっとつまらないだろうと言うと、今まで笑顔だった柴本氏の表情が一気に曇った。
「そんな寂しいこと言うなよ。まぁ、言いたくねぇことがあるなら聞かねぇよ。それは約束する。けど、頼むから自分を卑下しないでくれ。勿体ねぇよ。そんなの」
悲しげな顔で熱弁する氏に、ありがとうと礼を言う。その裏で考える。わたしの素性を知っても尚、彼は同じように言うのかと。
今は考えたくもなかった。他種族共生を掲げる河都市では、異種族恐怖症持ちは社会秩序を破壊しうる敵として看做されている。異種族恐怖症の家系に生まれ他種族から隔離された特別都市で育ったわたしは、この河都の人々からは敵として見られかねない。
柴本氏を信じたい気持ちが無いわけではなかったが、そうするには未だ沢山の不安があった。
「昨日は焦り過ぎちゃったけどさ。ちょっとずつ、お互いのこと知っていこうぜ。こうやってメシ食いながらさ」
それはわたしも同じだった。疑っては隠すばかりの人生に疲れを感じ始めていた頃だったのだ。
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