クアラルンプールで

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 梨花が二階に案内する。二階には父たちのベッドルームと、客室。シャワールーム。客室にはダブルベッドがふたつ。 「せまくないかしら」  梨花が心配する。 「いえ、じゅうぶんです」  たぶん翔の寝相にはどれだけ広くても足りない。真司に抱かれたままぐっすりと寝てしまった翔を寝かせると、真奈も隣に横になって寝息を立てはじめた。 「疲れちゃったのね」   梨花がやさしい笑みを浮かべてふたりにタオルケットをかけてくれる。 「クローゼットは好きに使ってもらっていいし、真司さんも彩香さんもすこし休んだら?シャワーも使えるわよ」  そういって梨花は出ていった。 「さすがに疲れたな」   真司がいう。 「飛行機ではよく眠れなかったし」 「ええ? ぐっすり寝てたわよ?」  口を開けて。機内の数か所から聞こえる轟音のようないびきを聞きながら、この人がいびきをかく人でなくてよかったと、彩香は安堵したのだった。 「そうかなあ。いまいち寝つきが悪かった気がするよ。座席のせいかな」  真司はそういって、空いたベッドにごろりと横たわると、それきり動かなくなってしまった。  もう、っと彩香はキャリーケースをあけて着替えやら洗面道具やらを出していく。  ああ、おみやげも出さないと。なにか気の利いたものを、と思いながらもなにも思いつかず、買いに行く時間もとれずで、けっきょく羽田空港の売店で、毎度おなじみの東京みやげを買ったのだった。 「はあ……」  三人の寝息を聞きながら、彩香もちょっとだけ、と横になった。 「わたし、ピンクにしたいな」  遠くの方で真奈の声がする。なにがピンクだ。重たい頭を無理やり起こす。ぼうっとしたまま見渡すと、同じベッドに真司が寝ている。彩香が起きたはずみで、真司ももぞもぞと動きだした。  となりのベッドには翔がまだ寝ている。  ちょっと横になったつもりが、すっかり寝てしまったらしい。真奈はひとり起きだして、階下に降りたようだ。話し相手は父か梨花か。  いま何時だろう。彩香も階下に降りる。 「すっかり寝てしまったわ」  父が笑っている。 「飛行機じゃゆっくりできなかっただろう」 「ママぁ。真奈もね、ネイルしてもらうの」  真奈が両手を突き出して見せた。 「んん? ネイル?」  ネイルがどうした。 「梨花ちゃんはね、ネイリストなんだって」 「ええ? ああ、そうなんだ」  梨花をみると、申し訳なさそうに微笑んだ。 「勝手にごめんなさい」 「いいえ、こちらこそ図々しくて」  ぼやっとした頭が、徐々にはっきりしてくる。どうりで爪がきれいなわけだ。 「ピンクにしてもらうの」  やる気満々だな。 「いま何時?」  聞いた彩香に父が答えた。 「四時過ぎたところだよ。六時になったら散歩がてら食事に行こう」  なんだか、ことごとくタイミングを逃している気がする。  真奈は父と梨花となかよくお菓子を食べながら話をしている。もうすっかりなじんでいる。  子はかすがい。  こういう使い方ではない。でも真奈がいなければ場が持たないのもおそらく事実だ。
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