南国の夜

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 ふと目が覚めた。深夜だと思ったのだが、まだそれほど時間はたっていなかったようだ。真司も翔もぴくりとも動かない。真奈はだいじょうぶだろうか。ベッドからおりて部屋を出た。  父の寝室からはかすかな話声がする。真奈の声はしない。 「かわいいわね」 「うん、そうだな」 「あなたもいいおじいちゃんね」  梨花がくすくすと笑っている。 「会う機会も減ってしまったからな。なついてくれてよかったよ」 「しっかりおじいちゃんしているじゃない」 「……罪滅ぼしかな。いい父親じゃなかったからね」  ぎくりとする。父はそんなふうに思っていたのだろうか。 「そんなふうに思っていたら、来ないわよ」  (さと)すように梨花がいう。 「たぶん、いろいろと聞きたいことがあるんだろうな」 「彩香さんにはちゃんと説明しないといけないと思うわよ」 「きみのこともね」  父の声に甘さが加わって、また背中がザワリとする。 「わたしのことは……」  梨花の声は沈んでいく。 「不愉快でしょうね」  うーん。そこが問題なんですよ、と彩香は思う。 「それはきみのせいじゃないよ」 「わたしのことは最後でいいから。まずは、彩香さんのわだかまりを解かないと」 「それもこれも全部いっしょだよ。うーん、それにしても長くなるなぁ」  ほんとうは、いつからなんだろう。そのへんも教えてくれるんだろうか。 「年表ができちゃうわね」  ふたりの笑い声が密やかだ。ふと、梨花の声から笑いが消えた。 「あなたは彩香さんを手駒に使わなかったのね」  わたしを? 手駒に? 穏やかじゃないな。彩香の眉間にしわが寄る。 「あたりまえだろう。目の前に犠牲者がいるんだ。するわけながない」  犠牲者? 梨花が? 「その点だけはお義父さんを責めるね。ただ俺は取締役の中でも下っ端だったから、派閥争いに巻き込まれずにすんだだけだよ」  梨花の過去になにがあったというのだろう。それが父とどう関係しているのか。 「よかったわ。りっぱなお嬢さんだわ。ご両親がちゃんと育てた証拠よ」 「うん、まっすぐに育ってくれたのは感謝してるよ」 「真奈ちゃんも翔くんも素直ないい子だし、真司さんも誠実そうだし」 「それは嫌味かな」  くすくすと忍び笑いがする。 「同じ常務の娘でも大違い」  え? 梨花の父親も常務だったのか? 「きみはすこし特殊だったんだよ」  父はなぐさめるようにいった。 「わたしもね、子どもがいたら違ったのかなって思わなくもないの」 「そんな話はじめたら、キリがないだろう。俺だって先にきみと会っていたらと思うよ。でもそんなたられば、不毛だろ?」  父が諭すようにいう。 「そうね」 「いま、こうしてきみといっしょに暮している。それで俺は満足だよ」 「……うん、わたしも」  チュッ。おやすみ。  ほんとにゲロ甘だな。  物音を立てないように、彩香はそっと自分のベッドにもどった。
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