愛するもの 愛されざるもの

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 またひとつ、戦が終わった。  俺は、小高い丘の上に立ち、戦の後の、朝の平原を見渡す。斃れた兵士の死肉を漁る鴉の鳴き声、あちこちから未だ立ち上る血と硝煙の匂い。飽きるほどの戦いを重ねてきた俺には、どれもが見慣れた光景であり、たいした感慨は生じない。  ただ、また生き残ってしまった、という些か苦い想いの他には。 「埒もない……」  俺は自分のそんな感情を自嘲するかのように、思わず、独りごちた。本当にそう望むのなら、簡単なことだ。さっさと戦場で敵の手にかかってしまえば良い。実際、戦の最中に幾度もそう思った。あぁ、今なら死ねる、と。だが、俺は結局、命惜しさに敵の刃を自らのそれで撥ねのけてしまう。  に逢いたい気持ちは、生を重ねる毎に強くなるばかりだというのに。 「エーベルト准将、エーベルト准将……!」  朝霧の靄の中から、俺を探す声がする。俺は(かぶり)を振って、感傷をどうにか意識の向こう側に追いやると、声の方向に向かって振り向いた。そこには副官のヴィルヘルムが息を切らしつつ、佇んでいた。 「ヴィルヘルム。何か用か?」 「兄君がお呼びでございます」 「兄上が?」  俺は思わず眉を顰める。だが、それ以上感情を顔には出さず、俺は黙って、兄のルートヴィクの元へと軍靴の先を向けた。
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