Stage1, Roll Up

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 *  出番の時間が来た。  あたしたち4人はステージから客席を眺める。  オールスタンディング。昔だったら人がぎゅうぎゅうに詰まって熱気にあふれていたこの箱は、すっかり「ソーシャルディスタンス」仕様になって一定間隔にマスクの白がずらりと並んでいる。 「今日は、どうもありがとう」  あたしがマイクに向かって最初の挨拶をすると、客席から大きな拍手が上がった。  あたしたちの音楽は、これまで拍手なんかをもらうような上品なものではなかったはずで、声を上げられなくなると人っていうのは上品になるのかもしれないなんて思う。 「なんか、変な感じ」  マイクを通して思わずそう言ってから紗枝(さえ)を見た。紗枝の心の準備が整うまでは、あたしがいつも会話で繋ぐ。 「えーと、実は……あたしたち、久しぶりのライブっていうのはみんなも知っている通りなんだけど、こうやって音楽を鳴らすのがホント、久しぶりなんだ」  また、拍手が上がった。声が無いってやりづらい。 「このライブハウスも一旦閉店が決まってから復活してくれて。戻って来れて嬉しい」  ちょっと喉の奥がぐっと締まったみたいになった。いつもだったら、ここで観客から『真琴(まこ)ちゃーん!』って声が上がる。でも、まばらな拍手がパチパチと焚火の音みたいに響くだけ。  紗枝の方をちらりと見る。頼もしい黒髪が、口角を上げて頷いた。 「One, Two, Three, Four!」  あたしの掛け声の後、紗枝のシンバルが鳴ってきっかけを作り、ドラムが激しくリズムを刻む。  その後すぐに杏美(あみ)優梨愛(ゆりあ)が加わっていく。  よし。 「手だけでも上げて! 楽しんで行こうね!」  あたしの歌い出しから、観客と共に世界が揺れる。  ああ、すっかり変わってしまったって思っていたけど、何も変わっていなかった。  この箱の音。音は振動だって思い知るような会場。ライブならではの、今ここにいる感覚。  最後列まで表情が見える。目だけしか見えないと思っていた人の、口元がどうなっているかまで分かる。    あたしの居場所。あたしの声を届けるために置かれたボーカルマイク。 「ただいま!」  そして、おかえり、みんな。
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