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Stage 2, Go On
あたしは音楽以外で自分が誰かのためになれると思ったことがない。
勉強は特別得意ではないし、好きな教科もない。運動もできない。
今まで生きていて同じような価値観の人に出会ったことがなかったから、高校に入って杏美に出会ったとき、運命の出会いというのは本当にあるのだと思った。
杏美は、口ずさみながら曲を書く。
曲を書いている時に、そのメロディを隣で覚えながら、あたしは適当な英語を当てて歌詞を付けて歌った。
「真琴ちゃん、音に言葉を乗せるの上手いね」
杏美は楽譜に音符を書き留めながら、「真琴ちゃんみたいな人がいると楽しいな」と言った。あたしも、綺麗なメロディやかっこいい音を次々に生み出す杏美の隣にいるのが好きだった。
この世には、巡りあわせっていうのがあるらしい。
あたしたちは人より周りに馴染めない。杏美とあたしは10代後半になるまで出会えて来なかったから、集団の中で常に疎外感を感じていたんだと思う。
だから、あたしは高校時代に初めて自分のことが好きになれた。
杏美の音楽を歌える自分が、この世で最高に格好いいと思えるようになった。
紗枝と優梨愛は杏美の音楽に心酔している。だから紗枝は杏美の音楽のために練習を欠かさないし、優梨愛は技術を磨くためにギターの先生のところに通っていた。
この音を奏でたいと心から願うと、チームワークなんかなくたってバンドは形になる。
大好きなものを最高の音で表現したいという純粋な気持ちは、あたしたちの技術向上の大きな原動力になった。
高校の軽音楽部でありながら、プロ並みの音。
そう言われるようになったあたしたちが天狗にならなかったのも、当たり前のことだ。
杏美の音を誰にも渡したくない。
杏美の音楽を誰よりも格好よく鳴らしたい。
だから、あたしたちは常に危機感を持っていた。
誰よりも上手くなりたくて、杏美の音だけは誰よりも理解して表現したい。
他のバンドがどうだとか、ライバルがどうだとかは全く気にしていなかった。
あたしの敵はあたししかいなかったし、ほかのメンバーにしても同じだ。
杏美の音だけは、間違っちゃいけない。
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