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Stage 3, Change Round
ライブが終わって、あたしたちの公式SNSに多くの声が届いた。
今回のキャパシティではチケットが手に入らなかったという残念な声から、改めてライブの良さを実感したという声。あたしの歌はインターネットとライブでは違うのだとか、紗枝のドラムは会場に行ってお腹で聴くのだといったものまで。
『次のライブは、半年後でも良いかな?』
優梨愛が同意を取るみたいに全員宛のメッセージを送ってきた。
『優梨愛は、就職するの?』
杏美がそんな風に返しているのを見て、同学年同士で就職活動の話をしたりはしないんだなと驚く。
『まあ、普通に考えて就職はするよ。音楽は辞めたくないけど、ずるいかな?』
優梨愛は既に結論を出していた。社会人にはなるけれど、音楽は辞めないつもり。それが優梨愛の生き方みたいだ。
『ううん。実は私ね、音プロ、受けてみようかなって』
杏美がそうメッセージを送ってきた後、暫く誰も何も返せなかった。
音プロ……音楽の制作会社のことを業界用語でそう呼ぶらしい。作曲家を抱える会社で、企業のCM楽曲や店内BGMやテーマソングなんかを作るのが仕事だ。
杏美なら、受かるのかもしれない。
業界的に採用なんかしてなさそうだけれど、杏美の才能があれば欲しがる会社があるのかも。
『杏美は社会人になっても、バンド楽曲は書けるの?』
みんなが何も言えなくなっていたから、あたしはたまらなくなって杏美に聞いた。
『書かせてくれるなら、書きたい』
杏美が遠慮がちに返信をくれたから、全員安心したらしい。
『杏美以外、誰が書くっていうのよ』
『やっぱり、定期的に新曲も欲しい』
『プロになっても辞めないで』
みんなで必死になって杏美を繋ぎとめようとした。
だって、杏美がいなくちゃこのメンバーはまとまらない。
杏美がいなくちゃ、あたしはステージで歌えない。
杏美がいなくちゃ、あたしの存在意義が無い。
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