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Epilogue
「ほら、走るよ!」
生ぬるい潮風が、べたっと顔に絡みつくように吹いている。
優梨愛が履いていたサンダルを脱いで砂浜に向かっていったのを見て、あたしと杏美は呆気に取られた。
紗枝は、優梨愛に遅れないようにスニーカーと靴下を慌てて脱いでいる。
暫くして、2人の笑い声と、キャーキャーという女性特有のはしゃぎ声が上がった。
「優梨愛がみんなで海の近くの民宿に行きたいって言ったときは、結構意外だったんだよね」
「うん、分かる……」
あたしと杏美は楽しそうな優梨愛を見て、カラ元気じゃなければ良いよねと小さな声で言った。
「新曲、書いたんだ……」
「うそ! 聴きたい! っていうか、楽譜は?」
「一応、持ってる」
杏美とあたしは砂浜には入らずに、コンクリートブロックの上に腰掛けて楽譜を見た。
楽譜に書かれた音符を、あたしはハミングで口ずさむ。
杏美は、それを聴きながら体を前後に揺らしていた。
「いいね、この曲。いや、この曲に限らず杏美の曲はいいけど、これは特に良い」
バラード調の楽曲で、途中をギターで聴かせる曲だ。優梨愛が見たら喜ぶに違いない。
多分、杏美は優梨愛のためにこの曲を書いたんだろう。
「ありがと。真琴ちゃんが言うなら間違いないね」
杏美はそう言って、その場に立った。
「優梨愛!! わたし、優梨愛っぽい曲を書いてきた――!!」
「え――?? 何――??」
優梨愛は何のことだか全然わかっていなくて、相変わらず紗枝と砂浜で楽しそうにしていた。
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