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その声は今まで聞いたどの声よりも愛おしくて、俺は胸がいっぱいになるのを感じた。
「俺も彗が好きだ」
「うん」
「これからもずっと隣に居て欲しい」
「……仕方ないなぁ」
そう言って彗は浴衣の裾で顔を拭いながらこちらを見上げた。
その瞳は涙で潤んでいたが、口元には柔らかな笑みが浮かんでいる。
「ふ、不束者ですがよろしくお願いします」
俺がぎこちなく右手を差出し握手を求めると、彗は照れくさそうに微笑んでそれに応えた。
「こちらこそ末永く宜しくお願いします」
それから俺たちはどちらからともなく手を繋いで旅館へと戻って行った。
幼馴染として過ごしてきたこの二十数年の月日を埋め合わせるかのように、俺達は互いの手を強く握りしめていた。
新しい2人の関係が始まったことを実感しながら。
ーおわりー
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