渡された傘

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梅雨に入って雨が降る日が多くなった6月のある日、僕はゼミで卒業論文の執筆を行っていて、夜21時を過ぎた頃にアパートに帰ることにした。 僕は片付けをして校舎から出ようとしたら雨が降り始めていた。 雨音を聞きながら僕は屋根の下で立ち止まってどうしようかと思っていたら、僕を傘に入れてくれた人がいて横を見ると傘をさした真潤が立っていた。 僕は恐怖のあまり声が出せずに体がガタガタと震えだした。 「魅李君、驚かせてごめんね!  僕は死んだんだよね!」 真潤の静かで落ち着いた口調に、僕は少し落ち着きを取り戻して、 「真潤は何故、ここにいるの?」 と率直に聞いてみた。 すると真潤が、 「魅李君の元気がないから、僕の悩んでいたことを正直に話そうと思ってここに来たんだよ!」 と教えてくれた。 「僕はトランスジェンダーであることを悩んでいて、男の子の姿でいることが辛いという話をしたことあるよね!  僕はウィッグと化粧、女の子の服を着て、女の子の姿で就職活動したけれど、どの会社の面接でも受け入れてもらえなかったの…  僕は女の子の姿で生きていくことはできないと思って、自殺することを決意したんだよ!」 真潤は自殺の原因を正直に話してくれた。 「魅李君は、僕の告白を受け入れなかったから僕が自殺したのではないだろうかと考えたようだけれど、それは違うからね!  それをきちんと伝えようと思って、僕は魅李君に会いに来たんだよ!」 真潤は僕の悩みを解消するために、このような話をしてくれた。 「僕は自殺してから今日で49日、天国からのお迎えがきたみたい。  魅李君、僕のことは忘れて、いつまでも元気でいてね!」 真潤は僕にこう告げると真潤は僕の手を取って少し強引に傘を握らせたかと思ったら、真潤の体は宙に浮かび上がって光の中に包み込まれて見えなくなり、やがてその光は消えてしまった。 僕は、真潤から渡された傘をしっかりと握りしめていた。 この日以降、僕の気持ちは落ち着きを取り戻して、就職活動や卒業論文の執筆に集中できるようになった。
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