ホストの贔屓日和

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一週間後、颯は大学を休み待ち合わせ場所で待っていた。 辺りには時間を確認しているらしい人の姿が多く見受けられる。 待ち合わせに遅れたようだが、あまり悪びれた様子のない女性。 友達同士の待ち合わせかと思いきや、手を繋いで歩き出した男性二人のカップル。 いや、ただのスキンシップかもしれないが、とにかく色々な人がいるのだ。 「あ、颯くん!」 「よッ」 「来るの早くない!? 待ち合わせの時間よりも40分早いんだよ?」 「そういう心優こそ今来るって早くないか?」 「前に出張ホストを頼んだ時、颯くん来るのが早かったからね。 颯くんの性格上、人を待たせるのは違うと思ったから前よりもっと早く来たのに」 「何だよそれ。 この調子でいくとどんどん待ち合わせの時間から早くなるぞ?」 「確かにそうだね」 「そうなる前に何とかしないとな」 「でもそうなったら二人の時間がどんどん長くなることにもなるよね?」 「・・・ッ」 悪戯っぽく笑う心優のその言葉に少し顔が熱くなった自分がいた。 特に手を繋いだりするわけでもないし、行き先が決まっているわけでもない。 それでも二人は自然と歩き始めた。 「ねぇ、今日はどこへ行くの?」 「心優は行きたいところとかないのか?」 「特に今日は考えてこなかったなぁ」 「なら静かな映画館とかにする? 動きたいなら水族館とかそういうところでもいいけど」 「水族館いいね! お昼はどうするの?」 「アガぺで二人分の予約を取ってるよ」 さらりとそう言うと心優は首を横に振ってみせた。 「アガぺって最近テレビとかで話題の・・・!? え、でもそこって超高級店じゃなかった? 私そんな高額払えないよ!? 既にホストでたくさんお金を使っちゃったのに・・・」 「彼女に奢らせるなんてことは俺は絶対にしないから安心しろ。 俺が勝手に予約して決めたんだ、俺が全て出す」 「・・・ありがとう」 颯と心優はあの後、正式に付き合うことになった。 そして今回は出張ホストではなく恋人としての初めてのデートだ。 ―――出張ホストでは基本的にお客さんがスケジュールを決める。 ―――長らく彼女がいなかったから自らレストランを探して予約したりは久々にした気がする。 ―――予定を考えるってこんなにも楽しいことなんだな。 「そう言えばホストのシフトを減らしてどう?」 「確かに大分楽になったな」 「無理はしてない?」 「してない。 何か異常を感じたらすぐに話すから」 「うん。 でも私のお願いを無理矢理聞いているなら・・・」 「だからそうじゃないって何度も言っただろ? 心優にとって必要なことは、俺にとっても必要なんだ」 颯はホストを続けることにした。 颯は辞める意志を固めていたが『私の過去を克服してくれるならホストでいてほしい』と心優が自ら言ってきたのだ。 ―――ああいう風に言われたら断れるはずがないだろ。 トラウマでもある場所に足を運んでくれていた心優には感謝した。 今でも心優と関係を持っていたから恋人同士になることができたのだ。 ―――そして心優がもう一つ提案してくれた。 ―――酒を飲む量は変えられないからシフトの数を減らしてほしい、と。 ―――これで前より大分体調をコントロールしやすくなった。 そして心優はもうホストへは行かないと宣言した。 これは自分が嫉妬するからという理由ではなく颯のためだ。 「ホストではいつも通り上手くやってる?」 「もちろん」 「私のせいで颯くんの長所を生かすことができなかったら嫌だからね」 確かに恋仲となった今、心優が店へ来たら対応がまた依怙贔屓になってしまうだろう。 それを避けるためにもこの選択でよかったのだ。 ―――あの時常連のお客さんに非難されたことをまだ気にしたりとかはしていないよな? ―――・・・もしそうだったとしても俺が見ているのは心優だけだから。 ―――自分の夢も漠然としているけど見えてきた気がする。 ―――俺の夢は心優を幸せにすることだ。 「まぁ特に狙ってはいなかったけど、ほぼ皆勤していた俺があまり行かなくなるわけだからナンバーワンからは落ちそうだな」 「別にナンバーワンにこだわらなくてもいいよ。 颯くんはこれからもずっと私の中ではオンリーワンなんだから」                               -END-
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