ホストの贔屓日和

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「みんな集まれー! ミーティングをするぞー」 閉店が間近となり、ホストたちに招集がかかった。 まだ客もチラホラ残っているが、ほとんどが出来上がってしまっていてそれに水を差すことはできないため、順次ミーティングに参加するという形になる。 ―――もう今日は終わりか。 ―――ホストの仕事は苦に思ったことがないからいつも早く終わるな。 会話が好きな颯にとっては天職とも言える。 そして閉店の時間になり、残っていた客も次第に帰っていった。 片付けや清掃を終えるとホールに皆集まって解散前の最終ミーティングをする。 「今回も颯は大活躍だったな! 颯がテーブルに顔を出した後、そのお客さんは追加で注文することが多いんだ」 「そんなことないですよ」 「颯がいないとこの店はやっていられないなぁ」 「仲間が支え合ってくれているからこその結果です」 「そういう謙虚なところもまた評価が高いよな」 その言葉を愛想笑いで流す。  ―――・・・そう言えば、俺はいつまでホストを続けるんだろう。 ―――このままホストをやり続けることも可能だ。 ―――俺の長所を生かして人に笑顔になってもらうなんて、他ではあまりない職業だから。 ―――・・・でも本気でホストのトップを目指している人にとって、今の俺の心構えでは申し訳ない気もする。 ―――将来の夢も未だに持たない俺がここに居続けるのって意味があるのかな。 ―――何か最近考え事が多くて、らしくないな・・・。 颯は煙草を吸わないが、仲間はほとんど煙草を吸っている。 ストレスが溜まるとそれで発散できるとかで、少し羨ましく思うこともある。 普段人の前では愛想よくしていることが多いため、悩み事はないと思われていた。 だが人とたくさんの交流があり、多くの人の情報を記憶している颯にとっては考えることも自然と増えるのだ。 「颯さん! お疲れ様です!」 「あぁ、お疲れ。 ゆっくり休めよ」 「はい! また大学で!」 大学通いで働いているホストも少なくない。 後輩を見送り徒歩で帰る。 家までは30分程で着くところに部屋を借りている。 夜道を歩くのは酒の酔いが冷めるため丁度よかった。 ―――特に明日の予定は何もなしか。 ―――ならやっぱり午後は大学だな。 ホストは夜の6時間程しか仕事時間がない。 そのため昼夜逆転ということを除けば、少なくとも颯にとっては負担は軽く感じられた。 午前中は大学へ行けないが午後は真面目に授業を受けにいっている。 「颯くん」 店から近いコンビニに差し掛かろうとした時、突然呼び止められた。 振り返るとそこには心優がいた。 「心優? こんなところで何をしているんだよ」 「颯くんの帰りを待っていたの。 一緒に帰ってもいい?」 「それはまた俺が心優を家まで送るパターンじゃないか」 「ほとんど家の距離は変わらないからいいじゃん」 心優と一緒に帰ることもホスト帰りでは多々あった。 だが今日の出来事があり、やはり心優を贔屓しているのではないかと自分も思い始める。 ―――贔屓しているということは自覚していた。 ―――でも心優に関しては何か違うんだよな・・・。 「そう言えば颯くん今日は空いてる?」 「今日?」 「そう。 午後とか」 「特に予定もないから大学へ行こうと思っていたけど」 「そっか。 急だけど颯くん指名で出張ホストを頼んでもいいかな?」 「・・・初めてだな、俺を指名するの」 「うん。 これでも勇気を出したんだよ? それで予定はどう?」 依怙贔屓という言葉が頭を過る。 無料なら依怙贔屓、お金を取った場合はお店を通さなければ義理欠けにもなってしまう。 念のため確認を取ってみる。 「・・・それは客としてだよな?」 「もちろん。 お金は全て私が出すから」 「・・・分かった」 「ありがと! なら決まり。 時間は13時からで場所はここでいいかな?」 「いいけど」 「お昼は食べずに来てね!」 心優は家まで送ることもなく一人で走って帰っていった。 贔屓のことがあり少々モヤモヤが残る。 ―――まぁ、いつも通りでいれば大丈夫か。 ―――・・・いや、いつも通りって? ―――俺って今まで多くの人と、どのように接していたっけ。 自分がよく分からなくなった。 これも全て心優のせいだと思った。 「・・・帰って風呂入って寝よ」
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