ホストの贔屓日和

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「颯ー! マドンナ様がお呼びだぞー」 「マドンナ?」 「屋上へ来てほしいって。 ・・・まさかとは思うけど射止めたのか!?」 「・・・さぁな」 それは颯が高校一年生の頃の話である。 学校一のマドンナと言われる好華(コノカ)先輩から呼び出しを食らったのだ。 好華は人当たりもよく悪い噂も聞いたことがない。 マドンナと言われているが高飛車なわけでもなく、どちらかと言えば誰からも好かれる花のような人という印象だった。 「好華先輩? どうかしたんですか?」 学年が違うこともあり出会う機会は滅多にないはずだが、何故か先輩から何度か話しかけられていた。 長い髪が風になびき相変わらず絵になる人だと思う。 だが現時点で颯から好華に対しての印象はフラットである。 もちろん何故呼び出されたのかはシチュエーションから何となく分かった。 ただマドンナのことを現状では外見以外ほとんど何も知らないのだ。 「ねぇ颯くん。 私、颯くんのことが好きなんだ」 「・・・え?」 「よかったら私と付き合ってくれないかな?」 突然の告白、ではあるが何となく覚悟はできていた。 はずだったのに、その言葉を聞いた途端魔法にでもかけられたように地に足がつかない感じがした。 一目惚れして告白し撃沈する同級生の姿は何度も見てきた。 颯も容姿は単純に好印象を持っていて、そんな彼女が自分に告白してきたのだ。 「・・・でも俺、先輩のことよく知らないですし」 だからすぐにOKしそうになった。 それを考え直し、相手のことをよく知らないため申し訳ないと思いそう答えることにした。 「大丈夫。 その上で私は告白しているから。 これから私のことを知ってくれればそれでいいよ?」 「・・・そう言ってくれるなら」 そう言われてしまえば否定する理由もなくOKした。 それから瞬く間に二人は付き合っているという噂、いや事実が広まった。 ただ付き合ってもお互いよく知らなかった関係のせいか、カップルらしいことはほとんどしていない。 なのに二人が付き合っていると知れ渡ったのは、どうやらマドンナが公言していたからのようだ。 ただそれも自分を本当に彼氏と思っているからで、淡白な関係であるが颯としては居心地が悪いとも思わなかった。 時々一緒に帰ったり休みの日に出かけたり、手を繋ぐくらいしか恋人らしいことはしていないのに楽しいと思っていたのだ。 「この映画ずっと見たいと思っていたものなんだ。 アクションものなんだけど」 「あ、俺もです! 気になっていた映画なんで一緒に見に行きませんか?」 好華とは趣味も合っていた。 ただ友達としてでも楽しいと思える日常に充実を感じていた。 だがある時学校で好華が友人と話している会話を偶然聞いてしまったのだ。 「そう言えば好華、最近付き合っている颯くんとはどうー?」 「めっちゃ順調だよ!」 自分のことを話しているのはすぐに分かったのだが、聞こえてしまえば気になるものでいけないと思っていながらも立ち止まって聞き耳を立ててしまった。 「それはよかった。 学年が違うから分からないんだけど、颯くんってどんな人なの?」 「え? うーん・・・。 分かんない!」 「分かんないって・・・」 「だって颯くんは顔だけで選んだんだもん。 中身なんてどうでもいいよ」 「好華らしいなぁ」 「一緒にデートして恥ずかしくない人が一番でしょ?」 「それは人によるけど。 これだけ一緒にいても颯くんのことが分からないの?」 「特に颯くんのことを知ろうともしていないからなー」 それを聞いて好華に裏切られたような気がした。 これ以上は付き合っていられないと思った颯は自ら振ることにした。 「颯くん、どうしたの? 話って」 「俺と別れてほしいんです」 「え? どうして!? 私何かした?」 好華は縋るように颯を腕を掴んだ。 付き合った時と同じ学校の屋上、靡く髪が何故だか自分に纏わりついてきているような錯覚。 「嫌だよ、私は別れたくない! こんなにも颯くんのことが好きなのに」 「俺も今でも先輩のことは好きですよ」 「なら!」 「でも俺は見せ物じゃないんです」 「ッ・・・」 「俺は先輩の見た目だけじゃなく中身も知ろうとしていたのに」 そう言うと好華はムキになって言った。 「たかだか半年で人の何が分かるっていうのかな? 十年親しくしていた人に裏切られることもあるっていうのに? 上辺だけの関係でいた方が虚構でも幸福を得られていたはずでしょ!!」 好華の意味深な言葉をそれ以上聞かず関係を修復するつもりもなかった。 これが最初の彼女というわけではなかったが、中身を見ようともしない彼女に心が傷付いていた。 「颯! マドンナと別れたんだって!? 一体どうしてなんだよ!!」 好華と別れ周りは少し騒動になったが、別れた理由は誰にも言っていないため先輩が悪く言われることもなかった。 これが原因で颯は恋愛がよく分からなくなってしまったのだ。 人を好きになるということを自然とストッパーをかけるようになってしまった。 ここで颯は夢から目覚める。 そこで溜め息をついた。 「・・・嫌な夢だ」
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