ホストの贔屓日和

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何となくモヤモヤとした気持ちを晴らせないまま店へと到着した。 開店はしていないが、仲間の姿はチラホラ見かけることができる。 「じゃあ俺は裏から回るから。 まだ開店までに時間があるけど、どうするんだ?」 「ここで待っていようかな、すぐ入れるように。 じゃあお仕事頑張ってね」 「あぁ」 心優と別れて店へと入った。 服装はデート用に気を遣ったものであるが、店での服には適さない。 結局は無難にスーツを選び着替えていると先輩に話しかけられた。 「おう、颯。 どうした、その荷物?」 「さっきまで出張ホストやっていました」 「あぁ、なるほどな。 遊びに行くだけでも金がかかるのにプレゼントまでもらうとか凄いな」 「俺も初めてですよ、こんなにもらったのは。 あ、先輩! そこの清掃は俺がやります!」 「そうか? ありがとな」 荷物を置くとすぐさま清掃を開始した。 そうしてミーティングを始めホストクラブは開店する。 ―――思えば俺が人を好きになるのが怖かったって、つまりどういうことだ? ―――俺は心優のこと・・・。 固定客の少ない颯であるが、ほとんど席に着いていない時間はない。 いや、固定客が少ないからこそ大忙しなのだ。 「新規入りまーす!!」 その声と同時に店内の照明は暗くなった。 既に客は何人かおり接待をしている最中だった。 「恒例! 新規さんのためのホストローテーションプレゼン!!」 ホストはリピーターの客が多い。 こうして新規が来るとその度にこのイベントは行われる。 新規の客には容姿だけでホストを決めなくて済むよう本当に自分に合ったホストを選んでもらいたい、そのような思いから始まったイベントだ。 ―――俺たちホストが1人5分の制限時間でローテーションして新規さんを接待する。 ―――本当にこの店特有のイベントだよな。 そして一周し終えたら新規の客に誰がよかったのかを聞いて選ばれた人が付く。 そのような流れだった。 「颯先輩! また颯先輩が選ばれるんじゃないですか?」 そう小声で言ってきたのは最近ホストになったばかりの後輩だった。 「またって何だよ。 俺は新規さんには選ばれないことが多いだろ」 「そうなんですか!?」 「俺の長所は多くの人と一度に交流することだ。 一対一の接待だったら特徴のない俺には難しい」 「なるほど・・・!」 だから颯はあまり指名されないというのもある。 何度も店に訪れると颯の長所が分かってくるため、そこでようやく颯によさに気付くのだ。 ―――ほとんど指名がないから自由に色々なテーブルに顔を出すことができる。 ―――だから今のこの環境が一番居心地よかったりもする。 そうしてイベントは始まった。 当然だがホスト側も新規客の容姿は見えていない。 「ねぇねぇお姉さん! 雰囲気の第一印象なんだけど、凄くカッコ良くない!? 僕憧れるんだけど!!」 中には可愛い系のホストもいたり、 「今夜は俺に溺れさせてやるよ。 なぁ? 可愛いお嬢ちゃん。 ・・・え? どうして顎クイする場所が分かったかって? それは心の目でお嬢ちゃんの顔が見えるからさ」 時にはワイルド系もいたり、 「お姉さん最高過ぎまへん!? 自分のボケにちゃんと笑ってくれるなんて!! きっとお姉さんの笑っている顔は宇宙一美しいわ!!」 時にはお笑い系もいたり。 ―――ホストはお客さんの前ではキャラを作っている人がほとんどだ。 ―――その中で俺は素の状態でやらせてもらっている。 ―――・・・俺だけが浮いているけど、こんな俺でも雇ってくれるこの店に感謝だな。 颯の番が来たため新規客の前に座った。 新規ということもあり颯も多少は言葉遣いが優しくなる。 「お姉さん、いらっしゃい。 今日はどうしてここへ来たの?」 「実は彼氏と喧嘩して別れちゃって・・・」 「彼氏と? それは凄く辛かったね」 「はい・・・。 私は絶対に悪くないのに全部私に責任を押し付けられて・・・」 「うん」 「あの男と別れて正解だと思いますか?」 「そうだね・・・。 喧嘩の内容にもよると思うけど、全部が全部彼氏さんが悪いわけではないと思う。 ごめんね」 「・・・いえ・・・」 「彼氏さんはお姉さんのことが好きだから付き合った。 それは変わらない事実だ。 この後にどんな未来が訪れようとも、その素敵な事実は忘れないであげて」 「はい」 「でもお姉さんがこうして苦しんでいるのなら別れて正解だと思う。 俺はお姉さんが苦しみながらも付き合ったままでいてほしくない」 「ッ・・・」 「きっとお姉さんは笑顔が似合う。 だから自分が幸せになる道を選んでほしい」 そう言ったところで制限時間となった。 颯は席を立つ。 ―――恋人と別れて癒しを求めるためにホストへ来た。 ―――そういうお客さんは何度も見ている。 ―――きっと辛くて寂しいから誰かに縋りたくなるんだ。 ―――そんなお客さんの想いを俺は適当にはしない。
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