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好華の突然の言葉に颯は思考が停止していた。
―――・・・告白?
―――俺は今先輩から告白を受けたのか?
もし好華に対して何も思うことがないならば、ここまで動揺することもなかった。 それがつまり颯自身、過去を乗り越えられていなかったことを理解させられてしまったということ。
言葉に詰まっているうちに周りのメンバーがひそひそと話し始めていた。
「颯とあの新規さん、何か様子がおかしくないか?」
「確かにそうだな。 颯が本調子じゃないような気がする」
「それに雰囲気も少し険悪っぽいし・・・」
「・・・あれ? でもあの新規さんってもしかして・・・」
「知っているのか?」
「いや、ここは颯目当ての客が多いだろ? 熱中するような人は颯のプライベートのことを探ろうとするんだよ」
「そこまで!?」
「それで探っていた人たちから聞いたことがあるんだ。 高校時代に付き合っていた年上の先輩がいたって」
「その先輩があの新規さんということか?」
「可能性はあるな・・・。 髪が長くて派手な見た目としか知らないけど、あの場の雰囲気は元カノっぽいだろ・・・」
「修羅場にならないといいが・・・」
それを聞いていた心優は静かに席を立った。 心優も客として店にいたため当然イベントに参加している。 ただ全ホストとの交流にはあまり興味はなく、暗闇の中颯の声には耳を澄ませていた。
「あれ? まだ開店したばかりなのにもう帰っちゃうの?」
「はい。 明日は仕事があるので早めに帰って休まないと」
「そっか。 心優ちゃんは颯をいつもよく見ているよね? 今日は颯と話さなくても大丈夫?」
そう言われ心優は颯を見た。 未だに颯たちは重たい空気を放っている。
「・・・平気です。 またの機会で」
小さく笑って会釈をすると心優は店を後にした。
「あの子は健気だよなぁ」
一方颯はジッと好華を見据えていた。
「颯くん。 返事を聞かせて」
そう言われて仕事なりの答えを出す。
「・・・ごめんね。 まだ好華さんのことをよく知らない状態だし付き合うことはできないかな」
これは好華から学んだことだ。 やはり相手のことをよく知った状態で付き合わないと後悔すると学んだ。
「まだ私のことは知らなくてもいい。 これから知っていけばいいから」
―――・・・その発言、ズルくないか?
かつて告白をされた時と同じような言葉を返された。 過去の記憶が一瞬蘇る。 もしこれが店の外でならもう少し違った答えを出していたのかもしれない。
しかし、今の颯はホストクラブで売れっ子ホストとして自分の役割をしっかり持っている状態。 最近少々揺らいだりすることもあったが、客観的に自分の答えを出すことができる。
「それでもごめんね。 流石に初対面だと」
「颯くんがホストの仮面を被っている時の答えは分かった。 今度は本当の颯くんの返事を聞かせて?」
「・・・」
そう問われた時既に颯は心が軽くなっていた。 それはトラウマがなくなったのだと自分でも分かった。
―――トラウマだった先輩に俺の中身を認めてもらえた。
―――最初は何を言っているのか分からなかったけど、その言葉を理解した時は凄く嬉しかった。
―――・・・もう俺は何にも縛られなくていいんだよな。
「・・・ごめんなさい。 好華先輩の気持ちに応えることはできません」
「ッ・・・!」
「でも先輩が俺の中身を見てくれた時は物凄く感動しました。 これでトラウマを克服できました」
「トラウマを克服・・・? もしかして私のせいで・・・」
「いえ、もういいんです。 解決したことですから。 これからは胸を張って生きることができると思います。 先輩、最後までありがとうございました」
小さくお辞儀をして席を立つ。 そんな颯の腕を好華は掴んできた。
「え、待って! どこへ行くの? 私が指名したのは颯くんなのよ!?」
「分かっています。 ですが俺と先輩が恋仲であった以上、俺は通常通りに対応することが難しい。 だから代わりの人を探してきます」
好華の手を優しく振り解き席を離れた。 店長に事情を説明し担当を変えてもらった。
―――そう言えば心優は・・・。
―――あれ?
ふと思い出し店内を見渡すも心優の姿は見つからなかった。
「あの、心優ってもう帰りましたか?」
「あぁ、ついさっき帰ったな。 明日は仕事があるからって」
「そうですか、ありがとうございます。 店長すみません! 休憩に入らせていただきます!!」
「もう!?」
「あとでその分ちゃんと働くので!!」
好華の担当が代わり颯は今フリーとなった。 心優が帰ってしまったのはいつか分からないが、それでも颯は裏口から店を出て心優が向かったであろう道を走った。
幸い家に帰ろうとしたなら道は分かっている。 もちろん別の場所へと向かう可能性もあるが、何となく今は家の方向へ行ったと思った。
―――どうして俺は今心優を追いかけているのか。
―――それは何も考えず咄嗟に出た行動だ。
―――・・・それがもう答えだろ。
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