00 プロローグ

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00 プロローグ

 頼まれていたおつかいを済ませて店を出ると、世界は一面、透明なオレンジ色に染められていた。  自転車の前かごに買い物袋を入れて走りだすとすぐに、港のそばにバスケットゴールがある公園が見えてきた。ネットは潮風に傷んで、とっくの昔に錆びついたリングだけになってしまっている。  時間に置き去りにされてしまったようなそのゴールの前に、誰かがぽつんと一人で立っていた。大きな夕日が逆光になってはっきり見えないけれど、膝上丈のスカート姿から、その人影は女の子だと思えた。  少女がボールを顔の前に構える。そして、ジャンプすると同時に、その手を離れたボールは、美しい放物線を描いてゴールリングを通過した。  あんな子、うちの高校のバスケ部にいたっけ……?  脳裏にそんな疑問がよぎるのと同時に、思った。  バスケ部ならまだ部活中だし、この青花地区に住んでいる部員は泉美(いずみ)だけ。多分、あの子は高校のバスケ部員じゃない。  だとすれば、彼女がバスケ部に入ってくれれば、きっと泉美も喜ぶはず。  けれど、結局はそう思っただけで、彼女に声を掛けることもできないまま、美海(みう)はペダルを踏み込み家路を急いだ。  少女がもう一度放ったシュートは、さも当然といったように、ゴールリングに吸い込まれていった。
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