2人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
00 プロローグ
頼まれていたおつかいを済ませて店を出ると、世界は一面、透明なオレンジ色に染められていた。
自転車の前かごに買い物袋を入れて走りだすとすぐに、港のそばにバスケットゴールがある公園が見えてきた。ネットは潮風に傷んで、とっくの昔に錆びついたリングだけになってしまっている。
時間に置き去りにされてしまったようなそのゴールの前に、誰かがぽつんと一人で立っていた。大きな夕日が逆光になってはっきり見えないけれど、膝上丈のスカート姿から、その人影は女の子だと思えた。
少女がボールを顔の前に構える。そして、ジャンプすると同時に、その手を離れたボールは、美しい放物線を描いてゴールリングを通過した。
あんな子、うちの高校のバスケ部にいたっけ……?
脳裏にそんな疑問がよぎるのと同時に、思った。
バスケ部ならまだ部活中だし、この青花地区に住んでいる部員は泉美だけ。多分、あの子は高校のバスケ部員じゃない。
だとすれば、彼女がバスケ部に入ってくれれば、きっと泉美も喜ぶはず。
けれど、結局はそう思っただけで、彼女に声を掛けることもできないまま、美海はペダルを踏み込み家路を急いだ。
少女がもう一度放ったシュートは、さも当然といったように、ゴールリングに吸い込まれていった。
最初のコメントを投稿しよう!