スノーホワイト

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私はヴィンセントの服を脱がせ、彼の体中くまなくその印を探しました。 しかし、背中の矢傷の痕以外何もありません。 それどころか、長身のせいで服を着ているときには華奢で弱々しく見えた彼の体は思いのほかたくましく、相変わらず蒼白いということを除いて、芸術品のように何一つ欠けた所がありません。 私の中に、初めて彼と会ったときの感覚が蘇りました。 それから後のことはよく覚えていないのです。 分かっているのは、私が彼の中に自分の欲望を吐き出したのだということ。これは逃れようのない事実です。私は彼を犯しました。 その夜、世界中が絶望に満ちていました。 私が正気に戻って最初に感じたのは罪悪感ではありませんでした。 一刻も早くここから抜け出さなくてはと思い、無心でヴィンセントに服を着せ、私は上着も着ずに教会を出ました。そこは今、私が最も近づきたくない場所でした。私は逃げ出したのです。 外はまだ雪が降り続いていて、膝の所まで足が雪に飲まれました。足から体が凍っていくようです。私の体はすでに汗で濡れていたので、途端に刺すような痛みも肌の上に感じました。 ヴィンセントの肌も冷たかった。どうしても冷たいままだった。私はそれを無理矢理──。 私は暗闇の中をがむしゃらにのたうち回り、雪の上に仰向けに倒れました。 夜空の彼方から、どこからともなく白い氷の花びらが止めどなく降り注いでいました。こうしていると、雪が天から降ってくるのではなく、自分が天に昇っていくようです。 今なら行けるだろうか? 私はヴィンセントとは違う。このまま眠ってしまったら、二度と目覚めることはないだろう。 目を閉じると、忘れ去られた記憶の底から、膨大な断片が一気に雪崩れ込んできました。どれも取り留めもなく倒錯していました。 土の中から女の声がする。切り裂く風の音に似た、恨みと苦痛に満ちた聞き覚えのない声でした。でも、分かりました。私の犯した女達の声だ。 お願いだ、行かせてくれ…… 錯乱する音の隙間の静けさ、墓穴のような静けさの中に、ヴィンセントの声も聞いたような気がしました。 私を殺そうとしている雪以外、何者も私の熱を受け止めようとはしなかった。注ぐことを止めはせずとも、全部溢れて一滴も残らない。そう、誰も気づいてはいないではないか、彼でさえ。 私は急にはっとして目を覚ましました。 私が死んだら、彼はどうするのでしょう? 彼が魔女ならば、きっと何とも思わないでしょう。しかし、もし彼が弱りきった人間ならば、あの教会でそのまま死んでしまうか、上手くいってもこの先長くは持たないでしょう。 一度はっきりした意識もだんだん遠くなってきました。私は何とか余力を振り絞って民家の納屋の中に身を置き、そこで雪が降り積もるのを眺めていました。
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