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自分はやりたいようにやっているだけだ、と彼は言いました。確かに奔放ではあるようですが、彼は欲望を追いかけることがない分、至って静かでした。感情に飲まれて暴走することもありません。彼の言葉の一つ一つが、静寂の泉に落ちる雫のように響きました。
そんな彼の静寂と清浄を垣間見るほどに、私は彼を激しく渇望しました。
それは、彼の怠惰や無信仰を嫌いながらも、自分も彼のようでありたいと思う強い羨望でもあり、美しい宝石を手のひらで愛で、自分のものにしたいと思うような抑えがたい欲求でした。
しかし私は、そのどちらの希望も自分の中で認めるわけにはいかないのです。日に日に狂おしい感情が私の胸を掻きむしりました。
ヴィンセントはそんな私の気持ちを試すかのように、若くて美しい肢体を無防備にさらしています。
彼の肌はまるで象牙でできているかのように血の通っている感じがしません。眠っている彼は、脈をとってみないと、生きているのか死んでいるのか分からないほどです。
私は外で眠っている彼を、教会の中に何度か運んだことがありましたが、その時もまったく起きる気配を見せませんでした。
本当に何の反応もないのです。
彼は人形のように私に身を委ねました。
艶やかな黒髪、細く長い指、冷ややかな白い肌。すべてが私の手の中にありました。
私は彼といる間中、自分を抑えるのに必死でした。不謹慎なのは分かっていました。それでも、こうして彼を胸に抱き、愛らしい寝顔を好きなだけ眺めていることは私の密かな喜びでした。
私は自らの戒律を定めては破り、善行さえをも義務にして、時を噛み砕きもせずに飲み込みつづけています。しかし、かつては知っていたのです。人を慈しみ愛することがどんなに素晴らしいか。
その頃から、自己満足の奉仕であったかもしれない。でも、私はそれで幸せでした。それで皆幸せになれると、触れあう人と人との間に寄せては返す温もりが、すべての人を祝福してくれるのだと信じていました。
それを教えようとした、あの頃の情熱を、私はいつの間に忘れてきてしまったのでしょうか。
このひととき、あの空を覆う陰惨な壁は私たちのために窓を開け、小さな日だまりを作ってくれました。
私は彼を手放したくないばかりに、のろのろと歩いたものです。
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