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部屋の中は薄暗く、天井に打ち付けられた板の隙間から差し込む光で、かろうじて中の様子が見えました。
足下は水浸しで、床の上、ベッドの上、机の上、そこら中に雪の塊が転がっていました。
それに対する驚きで、今まで心の中に渦巻いていた動揺が、一気に脇に追いやられました。
「この部屋は何だ?」
私は不審の目でヴィンセントを見ました。
「今日は暑すぎる。これ以上雪が溶けたら困るだろ? だから日が入らなくした」
彼はまったく悪びれる様子も見せません。
私の溜め込んでいた疑惑が、また勢いを増して押し寄せてきました。
「暑いだって? ここは寒すぎる! そんな薄着でなんで平気でいられるんだ? 私はなんで雪がここにあるのか聞いてるんだ。あなたはここを何かの貯蔵庫にでもするつもりか? 昨日運んできたのか!」
「雪はずっと前からあった。寒いのが好きなんだ。昨日も俺は雪の中にいても平気だっただろう?」
私はこのやりとりが滑稽に聞こえてきました。
「その通り、君は平気だった。普通なら死んでる! でなくても、風邪くらいひいたっていいだろう! なのに、おまえは蒼白い顔をしてピンピンしてる。分からないのか? 異常なのが!」
私が声を荒げて責め立てると、彼は少し表情を曇らせました。
「変わってるとはよく言われるな」
「狂ってるよ。おまえは」
ヴィンセントの顔から表情が消えました。
「狂ってる──俺が?」
私は構わず続けました。
「おまえは魔女だろう」
彼は黙って私を見ていました。
「私を陥れる気か?」
すると、彼は私の聞いたどんな声よりも冷たく、こう言い放ちました。
「自惚れるな」
彼は氷の剣で私の心臓を貫きました。しかし、汚れていたのは剣ではなく、私の血でした。
彼は頭に血が昇って怒るようなまねはしません。それが私と彼の決定的な差でした。
よくよく考えてみると、彼が魔女だったとして、私は一体彼をどうするつもりだったのでしょう。彼には何の罪もありません。彼が彼であればそれでいいことなのです。
夕べ、ヴィンセントは私の手の中でされるがままでした。今朝、それとはまるで別人の彼がそこにいます。
私は純白の雪原に何度も自分の足跡をつけました。しかし、雪は後から後から降り注ぎ、ついには私の足跡を消し、何事もなかったかのように白さを取り戻します。
彼もまた同じように、私の卑しい視線を何度受けようと、目覚めれば再び純白を取り戻すのです。
ヴィンセントは私から目をそらし、落ち着いた声で言いました。
「悪い。ここは俺の家じゃない。この雪は片付けよう」
私はすべて告白して謝りたい思いでした。でも、彼は何も知らないままでいた方がいいのです。
「言い過ぎた。ここはあなたの部屋だ。好きに使ってください」
私の声は知らないうちに震えていました。
「明日、ここを出て行く。今まで世話になった」
彼の言い方には感情がこもっていませんでした。私は結局自分で墓穴を掘ったのです。
私は彼の信用を失いました。
「私はあなたが何者でもかまいません」
ここに居てくれ! 私は心の中でそう叫んでいました。
彼は首を横に振り、なだめるように言いました。
「君は俺がここにいることに、これ以上耐えられないだろう」
私は自分の部屋に戻り、ベッドの上に崩れ落ち、ヴィンセントと今まで過ごしてきた日々のことを考えました。
疲れきっていました。彼の言う通り、彼がこのままここにいることは耐えられないことかもしれません。
こんな形で別れが来るとは思ってもいませんでした。あと一時間、あと一日前に戻れれば──後悔ばかりが残り、糸の切れた真珠のように美しい記憶が散らばりました。もう二度と彼をを抱くこともない。会うことさえも。
私は泣きそうになるのを必死でこらえているうちに、いつのまにか眠ってしまいました。
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