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私は今までずっと胸のうちに抑え込んできた願望を夢に見ました。それは淫らな夢でしたが、私は汚いとは思いませんでした。
私はヴィンセントを抱き寄せ、彼もそれにこたえました。現実とは違って、彼には意識があり、なおかつ私を受け入れてくれました。血色もよく、体の表面の薄い膜を通して、心の内部まで温もりが伝わっていくようでした。
彼はすべてを許す穏やかな眼差しで、こう囁くのです。
「愛してる。エド」
生温かい吐息に消え入るような声。こぼれ落ちては玉の汗とともにシーツの中へ吸い込まれていく。
絡まる腕は誘惑の蛇になり、禁じられた実を噛んだイヴのように、彼に口づけするのに恐れはいらず、その中で熟した赤い果肉をそっと掻き立てれば、交わりあって、どこまでが自分なのかも分からなくなる。
どこへでも行ってやる。エデンの園は場所じゃない。君こそがエデン。芳しく咲き乱れる至上の楽園──。
夢の中の一夜は目眩がするほど鮮明でした。
目が覚めると、私はしばらく朦朧としていました。部屋は薄暗く、窓から青い光が差していました。私はどのくらいの間眠っていたのでしょう? 随分長かったような気がします。もしかして、もう明日の朝になってしまったのでしょうか。
ドアの縁をノックする音で、私は初めてヴィンセントが部屋の入口立っていたことに気づきました。
「もう、行くんですか?」
「いや、まだ明日じゃない。今日の夕方だ」
私はまだ意識がはっきりしないまま、もしかしたらこれが見納めになるかもしれない彼の姿を、何の隠し立てもなくじっと見つめました。彼の方も照れもせず、黙って私に見られていました。
彼が何も言わないので、一体何の用だろうと思いましたが、別に用がなくても構わなかったので聞きませんでした。
「あなたの夢を見ました」
ヴィンセントはそれを聞いて微笑しました。
「だろうな、俺の名前を呼んでた」
私はそのとき、自分が耳の先まで真っ赤になったと分かりました。
「他に何か言ってましたか?」
「息が荒かったな」
私が返す言葉を探していると、彼がまた口を開きました。
「また呼んだら、戻ってくるかもしれないぞ」
私は言われるがままに、彼の名前を呼んでみました。
「ヴィンセント」
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