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最終章 人生最大の反抗
俺は長い時間父親の運転に揺られ、実家に帰ってきた。
リビングに座らされ、両親から懇々と説教された。
吐き気がするほどの苦痛だった。
実際は数十分程度だったその時間も、何時間にも、永遠のようにも感じられた。
俺はそれにただすみませんと謝るばかりで、反論は何一つしなかった。
ただただ、俺は受け入れた。
夏休みの間、俺は実家に篭って編入試験の勉強をするように言われた。
その高校は、都内でも3つの指に入るような名門高校だった。
血反吐を吐くような努力をしなければならないだろう。
それでも、俺は嫌だとは言わなかった。
分かりましたと、ただ一言返すだけ。
やっとの思いで解放された俺はお風呂に入った後、自室に篭って寝ずに勉強に取り掛かった。
その時間に何の感情もなかった。
俺はただ、言われたことをこなすだけだった。
用意された教材をただ只管に解き続ける。
疲れ果てれば意識を失うように眠りにつき、目が覚めればまた勉強の日々。
ご飯は与えられただけきちんと食べきったが、影で吐くときもあったし、吐かずとも体を酷使しているせいか俺の体重は減り続けた。
それでも気にせず勉強し続けた。
そんな生活を、俺は何日続けただろうか。
ただ延々と机に向かって勉強し続け、寝るのも毎日ではない俺は日にちの感覚がなくなっていた。
携帯も電源を落として外部との連絡を遮断し、ただ只管に一人の時間に溺れた。
そんなある日、自室のベランダの方からがたっと音がした。
大きな音ではなかったが、一人の時間に没頭している俺が気づくぐらいの少し大きめの音だった。
俺は何だろうと不思議に思ったが、気に留めるほどのことでもないと思い、また勉強を始める。
しかし、今度は窓にコツコツと何かがぶつかる音がし始める。
無視するには高いその音が耳障りであり、俺の集中力を削がれる。
仕方なく俺は重い腰を上げ、窓のほうへと近づき、音の原因を探るためにカーテンを開けた。
そこで目に映ったものに、俺は動けなくなった。
目の前の存在が理解が出来なくて、幻覚でも見ているかのような感覚だった。
しかし、何度瞬きをしようと、俺の瞳に映るその存在は消えることはなかった。
新月の夜に、俺の部屋のライトに照らされたその存在は、俺に向かって手を振った。
真っ直ぐ力強い瞳を細め、少しぽってりとした唇は口角を上げ、整った綺麗な顔立ちは、優しい笑みを作って俺を見据えている。
「なんで・・・。」
俺はあまりの衝撃に小さく言葉が漏れる。
そんな俺に向かって、その人物は鍵のほうを指差し、口元を”開けて”と動かしている。
俺は、その言葉の意味を理解できないまま、従っていた。
カシャンと鍵が開く音がし、目の前の窓が開かれる。
「柚希、約束どおり連れ出しに来たぜ。」
そう言葉を紡いだのは、颯斗だった。
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