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俺も同様に静かに待とうかと思っていたが、先に来ていた隣の席の生徒が俺の方へと手を伸ばしてきたのが視界に入った。
「なぁ、お前名前なんてーの?」
視界に入ってきた手は手招きをするようにパタパタと揺れ、俺に話しかけているのだと認識し、そちらに視線を向ける。
そこには綺麗な頭の形をした坊主頭があり、眉毛は細く釣りあがっていた。
眉毛を剃るのは校則違反だったはずだが、ネクタイを緩めて第一ボタンを開け、袖もブレザーごと捲り上げているその見た目からして校則を守るタイプの人間ではなさそうだと判断する。
「俺は亀城柚希。そっちは?」
「俺田中京介。お前どこ中?」
「朝比奈中だよ。」
「朝比奈?遠くね?」
俺の出身中学である朝比奈中学校は、この高校からは遠く、電車で片道1時間の距離にある。
流石に知らないのではないかと思ったが、俺が思っていた以上に通っていた中学は有名なのかもしれない。
地元では有名な進学校だったから。
「ちょっとね。でも俺一人暮らしさせてもらうから、家は直ぐ近くだよ。」
「マジで?金は親が出してくれんの?」
「うん。まぁお小遣い程度にはバイトするけどね。」
「めっちゃいいじゃん。俺も家出てー。」
「田中くんは?どこの中学?」
「俺は金森中。てか京介でいいよ。田中なんて苗字、どうせ被るし。」
「じゃあ遠慮なく。金森中ってこの辺なの?」
「そっか、あっちにいたなら分かんねぇか。そこの大きい橋渡ったら直ぐだぜ。てか朝比奈とか進学校だろ?何でこんなとこ選んだんだ?」
「まぁ色々?家から出たくて。」
「何、厳しいわけ?」
「そんな感じかな。」
「でも一人暮らし許してくれるぐらいだから寛大じゃねぇの?おまけに金も出してくれるし。」
「社会勉強させて欲しいってお願いしたんだ。勉強一筋だったし。」
「だからってこんな高校選ばなくたって。もっとマシなとこあっただろ。」
「ここが良かったんだよ。割と自由そうだし。」
「まぁ、自由加減で言えばそうだろうけど。お前変わった奴だな。」
「そんなこと初めて言われたよ。」
「はい、皆静かに。前を向けー。」
そう言いながら教室内に現れたのは担任であろう体育教師っぽい男の先生だった。
だから俺はそれに従って前を向き、京介も大人しくその言葉に従った。
担任は簡単な挨拶と共に、入学式の流れを説明し始めた。
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