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笑い交じりに、馨を置いて歩き出す。が、口の端から力が抜ける前に、腕を掴んで引き留められた。
「貰わない」
ドクン、と波打った鼓動が広がり、全身が強張っていく。
「ぜったい。全部、受け取らない」
いまさらだが、幼馴染でいい、と言った馨の気持ちが少しだけ分かる。幼馴染なら許されることも、笑い飛ばせる冗談も、たくさんあった。
“幼馴染の馨”は夢でも見飽きたほど知っているのに、真剣な表情で言われたら、息を吐くことも躊躇ってしまう。
「花音、顔まっか」
「……うるさい」
私が冷たくあしらうと、馨はやっぱり笑った。
腕を掴んでいた大きな手が離れ、今度は私の手を掬って歩き出す。2月の向かい風では足りないくらい、あつい。
「浅見先輩のチョコ、馨も半分お金出して」
「ぜーったいヤダ!」
「……じゃあ、馨も浅見先輩と同じチョコでいい? お金なくなっちゃう」
しおらしく言ってみたが、全く腑に落ちない。馨がなぜ急に心変わりしたのか。なぜ、こんなにも浅見先輩を毛嫌いするのか。
ここ最近で変化したことといえば、それこそ、浅見先輩と話すようになったくらいで――。
「それと明日、うさぎのぬいぐるみ返すつもりなんだけど」
「それは一緒に行く。てか、オレは今すぐでもイケる」
……うん。私達はまだ、色々と打ち明けないといけないウラがありそうだ。
でもその前に。まずは足を止めて、お互いの目を見て。しっかりと息を吸って、それから――スキ、は明日まで保留でいっか。
―fin―
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