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テストが控えている時期になると、授業中の教室は異様に静かだ。
規則的に唸る空調の機械音。リズミカルに鳴り続けるチョークの音。視界の至るところで頷くように頭が上下し、誰もが一様に板書を写す。
先生が手を叩きながら向き直った瞬間、ふいに背筋をスーッとなぞられ、身体が震えた。
勢いよく振り返り、ムダに整った顔を睨みつける。馨はずいぶん前からそうだったかのように、頬杖をつき、窓の外を眺め、左手に持ったペンをクルクルと器用に回していた。
――――コイツ。
何かともてはやされるシャンパンレッドの髪は、陽が陰った室内ではやや鈍い色をしていた。その下にある黒目だけがチラリとこちらを見て、また窓の外へと戻る。
私は自分のノートを丸めると、赤い頭にそれを振り下ろした。
「いってぇ!」
パコッ、と情けない打撃音を、大袈裟な叫び声が打ち消す。
痛いわけがない。わざわざ厚みのないノートを選んだ。百歩譲って角が当たったにしても、本当に痛いときの馨は数秒黙ってから、平気だ、と笑う。そんな瞬間を幾度となく見ている。
「お前らなぁ、毎度毎度いい加減にしろよ」
先生の呆れたような一喝で、教室内は途端に賑やかになった。
ため息交じりに、もう一度後ろの席を睨む。アーモンド型に縁取られた瞳は、今度はしっかりと私を捉え、楽しそうに少しだけ細められた。
「暴力はよくないよ、花音ちゃん」
「……用事があるなら普通に声かけて」
「来週バレンタインだって知ってた?」
意味ありげに微笑まれたせいで、苛立ちが更に増していく。
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