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 1のは少し格好つけて古風な言い方をしたので忘れてもらえると幸いです。私の名はハスといいます。親切なお爺さんに育てられている内に、日本語が喋れるようになりました。お爺さんは、仁丹臭い、昔ながらの爺で、名を今野弥次郎兵衛と言います。今はお爺さんと他愛もない会話をするのが毎日の楽しみとなっています。日本語が喋れると言ったが、意味は分かるとは言っていないが、という方もいるかも知れませんが、私達植物は、実は、人間の言葉を解しているのです。  実は附けたいですが、蝶が来るのは非常に嫌です。私はどうも、あの生物が嫌いではなくなれないのです。あのはねや、あの触覚や、あのからだがとても気持ち悪く思われるのです。でも私は我慢します。そうしたら実がなるし、お爺さんを喜ばすことが、出来るのだから。  家の近くには、泥棒猫がいます。そいつはいっつも私の実を盗みに来ます。そういう時、私はいつもシッと言って威嚇します。ですが猫は無反応。怯えるということがありません。軈てお爺さんがそこを通りかかります。ハスや、と声を掛ける時、同時に猫の姿を認めます。するとお爺さんは、わざわざ遠くまでいって買った煮干しを分け与えます。でも、あの泥棒猫ときたら!お爺さんの優しさも分からずに、もっとくれ、とねだるのです。そしてお爺さんが笑いながら煮干しをやると、猫は帰ってゆきますが、次の日も又、懲りずに食事を貰いに来るのです。そんな猫に怒りを感じていますが、それよりも、あいつの飼い主の方が苛立たしい、腹が立ちます。だって、ペットを勝手に遊ばせて、自分は何もしないのですから。  隣には、薔薇や金雀児、時計草が咲いております。薔薇は暑さに参ってしまって、意識が少し混濁しています。金雀児は雀と戯れています。時計草は、不正確な時刻を尋ねても居ないのに教えてくれて、いつも幻覚に遊んでいます。何か言っても上の空です。だから私は踊り来る雀の子と、雑草とお喋りをしています。
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