3

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

3

 今、一人の男が私の近くを歩いています。彼はもう、死にそうです。目は虚ろで、脱水症状の様なものに陥っているのは、誰の目から見ても明らかです。そして、私の前で、ばったりと、倒れ込みました。手がぴくぴくと痙攣した様に動いています。もう直ぐ、彼は、死ぬでしょう。放って置いたら死ぬでしょう。でも、私はそんなむごいことはしません。お爺さんは、助け合う様に、といって居ました。私は、男に実を食べるようにすすめようと、声を掛けました。 「私の実を食べな」すると男は、声の主を探しました。そしてそれが私の他に誰も候補が居ないと分かると、ギョッとして、逃げようとしました。ですが、いきなり逃げようとしたものですから、ド派手に転びました。大丈夫かと思って、 「おい」と言うと、男は更に驚いて、最後の力を振り絞って、去っていきました。其の途中、何度か倒れそうになりましたが、何とか態勢を立ち直して、道の向こうへ消えてゆきました。  私はなぜだか、悲しくなりました。そしてお爺さん、と声を張り上げました。するとお爺さんは小走りしながら来ました。 「どうしたンだ」お爺さんに聞かれました。私は焦りました。だって、一人の人間に怖がられた、只それだけの事で、お爺さんを呼んだのが恥ずかしかったのです。なンだと、そンなことで、と怒る人ではありませんが、少し苦笑するだろうと思われます。そうしたら、私は赤面してしまって、私の実を直ぐに食べなければなりません。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!