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そう思えるほどには気持ちの整理ができた。
今回の日本への出張で出会うことができなかったら桐生は僕のものになる。約束を確認した。
運命にかけた。
桐生はホテルの自室の椅子に座って仕事をしている。書類を捲りながらノートパソコンをいじっていた。
「少し外を歩いてくる」
桐生は暗くなりつつある外を眺めて伸びをすると立ち上がった。
「今日はもうお休みなってください」
桐生の机の上の書類を纏める。立ち上がった桐生が頷いて部屋を出て行った。
まとめた書類を確認する。気になるところには付箋が貼られて、赤い印が入っている。桐生のマメさには驚くが、仕事の迅速さにも驚かされる。ついていく部下はいつも必死だ。
書類をチェックして付箋のあるところの資料を改めて確認した。数カ所に付箋を入れる。
『ガチャン』
部屋の入り口が開いて、「沢木、車の鍵」と言って桐生が慌てて入ってきた。
「車で出かけるんですか?」
カバンの中から鍵を取り出すと桐生はそれを受け取って、「送ってくる」とおかしな返事をして出て行ってしまった。
こんなに慌てて誰を送るというのでしょう。
仕事関係の相手なら桐生が送る必要はないし。
急いで桐生の後を追う。部屋を出てエレベーターでエントランスに出るが、桐生らしい人物は見えない。送るということは駐車場か。
ホテルの正面から出て出迎えをしているホテルマンに桐生の行方を聞いたが、こちらには来ていないということだった。
いつもはホテルマンにキーを渡して車を持ってきてもらうが、桐生は自分で取りに行ったんだろうか。
急いで裏口から出ようとフロアを横切る。視界の端に桐生が見えた。桐生の後ろには子どもを抱いた青年が慌てている様子で桐生に促されてエレベーターに乗り込むところだった。
「桐生様、お待ちください」
慌ててエレベーターに手を伸ばして閉まりそうなドアを開けた。
「お客さまですか? 申し訳ありません」
慌てて乗り込んだので青年は驚いて僕をじっと見るので頭を下げた。桐生に向き直ると桐生は青年の腕を掴んでいて、反対には青年のものだろう鞄を持っている。まるで、逃げるのを抑えるように。
桐生の知り合いにこんな人物は知らない。
何か問題でもあったのだろうか?
「お姿が見えなかったので探しました。こちらは?」
抱かれている子どもはまだ幼い。泣いていたのか、しゃくりあげている。
「個人的な知り合いだ。子どもが泣いていいて少し休ませる」
不機嫌というか、何か焦っている桐生に青年が顔をこわばらせる。
「遠慮はいらない。ゆっくりしていくといい」
桐生は言いながら青年を掴んでいた腕を離した。
「俺の秘書だ」
桐生に紹介されて、「桐生の秘書をしている沢木です」ともう一度頭を下げた。
「すいません。葉山です」
子どもを抱いたまま会釈をした。
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