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「桐生様っ」
急いで二人を引き離すと桐生を背中にして、「何で、なんでΩに反応するんですか?」と葉山に言った。
葉山はΩだ。
だけど、子どものいるΩに番のいるαが反応するなんて。
葉山に近づくと襟を掴んで首を確認した。そこには噛み跡はなく、まっさらな状態だった。
「どういうことなんですか? どうして噛み跡のないΩに子どもがいるんですか?」
葉山は子どもを庇うようにしてぎゅっと抱きしめる。
「番がいない?」
桐生は驚いたように声を上げた。
「つ、番はいないけど、彰は僕の子どもですっ」
葉山が大声で遮るように叫んだ。
「誰にも、誰にも渡さない。僕の子どもだ」
ぎゅっと抱きしめたままその場にしゃがみ込んだ。
「発情期なんですか?」
発情期のヒートを起こしたならこの香りもわからない事もないけど、番のいる桐生が反応してしまうのは……。
「もしかして……『ユキ』?」
声が、小さく掠れてしまう。
喉が乾く。
この時が、来てしまった。
「か、帰ります」
急に立ち上がる葉山を追いかける。
「待って、待ってください」
待って。どうか、間違いだと言ってほしい。まだ1年もあるのに。
2年も耐えてきたのに。10年耐えてきたのに。
「帰るって言ってるじゃないですか。放してください」
ぎゅっと腕を掴んだ。
掴む手に力が入ってしまう。
無理矢理に振り解いて、部屋を飛び出して走り出すが子どもを抱いて、鞄を持っていてはうまく走れない。桐生も追いかけてどうにか捕まえる。
「頼みます。ユキさんっ」
必死になりすぎて、子どもが落ちそうになって慌てた。泣き出して、「すいません」と謝るが子どもは余計に泣き出してホテルの廊下に響いてしまう。追いかけてきた桐生が、「沢木、ユキ、中に入ってくれ」と促した。
泣きじゃくる子どもを抱っこして葉山はあやしている。
帰ると続ける葉山になんとか留まってくれるように説得した。眠たいのだろうという子どもを寝かすまで待ってほしいと言われて隣の寝室に案内した。
「桐生。どういうことですか?」
どうしてここに『ユキ』がいるのか。
どうして子どもがいるのか。
分からないことだらけでなかなか状況を受け入れられない。
「ユキとは本当に偶然会ったんだ。ホテルのガーデンウエディング会場に散歩に出て、子ども泣き声がしたから向かったらそこにいたんだ」
桐生は興奮したように言ってソファーに腰を下ろした。
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