7『百地芸能事務所・2』

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くノ一その一今のうち 8『百地芸能事務所・3人の社員』   とっさに思いついてジャージの裾を引っ張ってみる。  なんと、ジャージの裾が三十センチほども伸びた。  店のショ-ウィンドウに映して見ると、ミニのワンピースになっている。  これは、いざという時に、怪しげなジャージ姿から、ワンピース姿に化ける忍者のアイテム?  胸にプリントされた『百』のロゴが伸びて、縦長の『白』のようになっている。上の横棒は、プリントが劣化して剥げ落ちて……単にぼろぎれ寸前になってただけ? 足元が地下足袋だから、ちょっと不思議なファッション。  そうだ、ケモ耳とか付けたら、渋谷とかアキバなら通用するかもしれない。  ウウ、しかし、ここは神田の古書店街だ。さっさと事務所に帰ることにする。 『さすがは風魔の二十一代目! 見事に躱したな!』  事務所のドアノブに手を掛けるとカギがかかって、インタフォンから社長の声が響いた。 「早く開けてもらえませんか~(;'∀')」  事務所に近づくにつれ、伸びたジャージが戻り始めている。  カチャ  もぉぉぉぉ  小さくプータレながら社長室に入ると、頭だけ外した着ぐるみの姿の社長が汗を拭いている。 「あ、あれ、社長だったんですか!?」 「ああ、零細企業だからな、足りない分は社長がやる」 「じゃ、残りの着ぐるみと通行人も?」 「うん、狐とアベックはうちの社員だ」  パサリ 「わっ!」  目の前が暗くなったと思ったら、下のジャージが頭に降ってきた。 「油断しちゃいけないなあ」  振り向くと、もう一人の着ぐるみとアベックが立っている。 「あ、あなたたち!?」 「紹介しよう、狐の着ぐるみが『力持ち』だ」  たしかに、着ぐるみの上からでも力はありそうだ。首の筋肉とかはプロレスラーみたい。 「あ、いまオレのこと男だと思っただろ」 「え?」 「うちで一番の古参だけど、立派なくノ一だ。化けることに関しては事務所でトップ。衣装・美術・特殊メイクが担当。仕事中は、みんな忍名で呼び合う。みんな『ち』で締める三文字から五文字でつけるのが習いだ。力持ち、なんか言ってやれ」 「四年遅れの覚醒だってな、モノになればいいが……まあ、励め」 「は、はい」  なんかムカつくけど、取りあえず先輩だし、素直に返事しておく。 「その、男子高校生風の通行人が『嫁もち』」  え、高校生で嫁もち!? 「あ、忍名。ちゃんと独身だよ。なんでもやるけど、マジックとかが得意かな? スタッフが落ち込んだりしたときには励ますとか、メンタル面でサポートすることもやってるから、困ったことがあったら、相談してね(^▽^)」  なんだか、感じよさそう。 「下のジャージを脱がそうって言いだしたのは、こいつだし『感じよさそう』なんて思わない方がいいわよ」  女子高生が、可愛い唇をゆがめて言った。こいつも、見た目と違う(^_^;)。 「あれは、社長が『手っ取り早く結果を出せ』って言うから」 「嫁もち、今はお金持ちのタームだ」 「はい」 「ヨロ~あたし『お金持ち』。って、あたしが金持ちってわけじゃないからね。いちおう経理も担当。バイトのギャラとか、あたしの胸三寸だから、媚び売っといてね」 「お金持ちも一通りのことはこなすが、専門は情報だ。その、お前の忍名は……」 「『そのいち』でいきます!」  変な忍名付けられちゃかなわないので宣言しておく。 「……まあいいだろう、風魔のそのいちだしな。まあ、遅咲きなんだ、今のうちに励め。じゃあ、テストの結果をもとにシフトと仕事内容を考えてやってくれ……あ、もう下のジャージ履いていいからな」 「え、あ!?」  気が付くと、上のジャージは、すっかり元の丈に戻っていた(#^△^#)。   ☆彡 主な登場人物 風間 その        高校三年生 風間 その子       風間そのの祖母 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち  
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