ひみつ

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ひみつ

竿から滴り落ちる雫の音。 表の水溜まりを太く真っ黒な足が勢いよく踏みつけては走り去る音。 まだ明るみのある空に希望を抱くも束の間、突然分厚い雲が堂々と流れてきては音だけでわかる程の激しい雨を地上に降らせていく。まるで高圧散水ホースで地上をいっぺんに洗い流すように。下にいるものたちからすれば、ただのいじめだ。 そんな雨を窓の向こうに見ながら、僕はいつも期待する。 濁音を響かせながら、そのまま豪快に地上の全てを流しさってくれるんじゃないかと。 雨に撃たれた生きものたちはみんなやる気を失って、大きな顔で背比べするように立ち並ぶ建物たちは雨に溶かされ、地上はたちまち何も無い世界へと変わってゆく。 そうすればもう、父さんは仕事に行かなくて済む。そして僕とずっと一緒にいてくれる。それならどんなにいいんだろうか。 そんな妄想を、雨音が耳に入る度、僕は繰り返す。
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