03.入隊試験

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03.入隊試験

 そうして私はアパートの1室で寝泊まりしながら先輩の指導の元、任務の見学や訓練を続けた。最初こそ「先輩」と言う呼び方に戸惑ってはいたが、1週間もするとすっかり慣れているようだ。 「まずは右手でグリップの上の方を握って、と親指と人差し指の間の一番深いところにグリップの後部が当たるようにしろ。反対の手は右手の指を包み込むように握り、隙間ができないように。」 先輩の言う通りに銃を握り、目の前の瓦礫を目標にして構える。人差し指に徐々に力をかけて引き金を引くと、「バンッ」と大きな音を立てて視界が揺らいだ。そしてお尻に大きな衝撃が加わり、倒れたのだと気がつく。 「痛っ……」 「目標に対して正面に向き、軽く前傾姿勢で重心は前にする。」 尻もちをついている私に構わず続けるから、慌てて立ち上がり再び言われる通りに銃を構える。 「両足は肩幅ぐらいに開き、左足は正面、右足は半歩後ろに下げ45度外側へ開け。あと、肘と膝は軽く曲げろ。」 引き金を引いて撃つと今度は倒れることは無くなったが、目標を大きく逸れて銃弾が当たる。すると先輩は口に手を当てて、「どうしてできないのかがわからない」とでも言うような顔で私を見る。ここ数日の先輩を見てわかったことがある。 先輩はいわゆる天才という部類の人で、基本的に教えるのは上手だが後は感覚。そしてきっとヴィーナスの中でもトップクラスに強い。 そこまで多くの人に会ったわけではないけど、任務に行くたびに先輩は誰かに頭を下げられている。それを当の本人も気にすることなく横を通り過ぎ、逆に誰かに頭を下げるところは見たことがない。  そんな人が一体どうして私をヴィーナスに誘ったのか。 謎は深まるばかりだった。  そうして訓練を続けて2週間。私は自分の狙った場所に10発中7発ほど当てられるようになり、「入隊試験」と言うハデスの討伐に向かった。 「今回の任務は壁の外での討伐だ。ここから壁の外へは車で行くから早く乗れ。」 そう言って運転席から顔を出す先輩は今の状況がさも当然かのようにしている。しかし、私にとってその光景は少し滑稽に見える。 「……何をしている。」 私が乗らずに固まっているのを見て少し不満を含んだ声色で私を睨む。 「いや…だって、先輩車運転できるんですか?」 「何を言っているんだ、俺は19歳だ。車くらい運転できる。」 私は開いた口が塞がらなかった。身長は私より少し高いが顔からして同い年ぐらいかと思っていたのに、まさか2つ上とは思わなかった。そしておとなしく車に乗ってからというもの、特に喋ることもなく沈黙が続いた。
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