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目が覚めると目の前には見知らぬ天井があった。
辺りを見回すと部屋には机と椅子、私が寝ていたソファなど必要最低限の物しかなく、私が住んでいた場所よりも何もない。体を起こすと右には大きなガラス窓があり、外はもう明るかった。
清々しいほど雲ひとつなく、青空が澄み渡った朝。
私はまだ生きていた。
体のどこにも傷らしきものはなく、乱雑に腕を振り回しても全く痛みは感じない。でも今はそんなことはどうでもよかった。
私はベッドから立ち上がり、さっき辺りを見回した時に目に入った壁に貼ってある1枚の写真の方へ歩みを進める。その写真には綺麗なシルバーの髪の眼鏡をかけた青年がこちらを向いて笑っているのが写っていた。
「あ、起きたっちゅか?」
……ちゅか?
私が写真へ手を伸ばそうとした時、突然可愛らしい声が聞こえた。しかし手を止めて辺りを見回しても誰もいない。いよいよ幻聴まで聞こえ始めたのかと呆れた時、その声はまた聞こえた。
「どこを見てるのでちゅか!目の前っちゅよ‼︎」
そう言われ声のする目の前を見ると、昨日会った男の瞳と同じ綺麗な水色の愛らしい小さな鳥が一羽、パタパタと翼を広げて飛んでいた。
「……鳥が喋ってる…………」
いくら文明が進んだとは言え、動物を喋らすことはまだできない。私は興味本位でその鳥を掴もうとすると、隣の部屋から昨日会った男が出てきた。
「その鳥はただの鳥じゃない、機械だ。」
私は伸ばした手を止め、まじまじと鳥を見る。だけどどう見ても機械には見えない。羽ばたく翼はとても自然だし、呼吸をするかのように胸も小さく動いている。
「僕は機械じゃないっちゅよ!ちゃんと『パル』という名前があるのでちゅ。それなのに主人と来たら、いつもいつも僕を『機械』とか『鳥』とか………全く、いい加減名前で欲しいっちゅよ!」
だるそうに聞く「主人」と呼ばれた男に向かって、パルと言う鳥はぐちぐちと小言を並べている。そんな不自然な光景がどうも私を穏やかな気持ちにさせた。
「そういえば、君の名前はなんていうんでちゅか?」
突然鳥は私の方を向き尋ねた。
「…私は、リネ。性はありません。」
「っ…そうなのでちゅか……。」
この世界で、「性がない」ということは家族や親戚、血のつながった人が誰もいないということを指す。それを聞いたパルは悲しそうに翼を羽ばたかせる勢いを弱まらせた。
「僕はさっき言った通り、パル。とある人によって生み出された鳥のような機械のような存在なんでちゅ。こっちは僕の今の主人、レオ。」
そう言われた男、「レオ」はこくりと小さく頷き続ける。どこかで聞き覚えのある名前だったが、思い出せない。その時突然私のお腹の虫が鳴いた。そういえば、昨日の夜ご飯も食べずに外へ出てから何も口にしていない。
「レオ・セイバーだ。
ひとまず、何か食え。話はそのあとだ。」
レオはそう言うとさっき出てきた隣の部屋に戻り、トレーに乗せたほかほかのご飯を持ってきてくれた。
「主人はいつもああなんでちゅよ。ぶっきらぼうだけど根は優しいんでちゅ。さあ、リネちゃんも座って座って。」
パルに導かれるまま私は席につき、レオが持ってきたご飯をいただいた。
「……美味しい。」
ここ最近はずっとヴィーナスが支給する硬いパンや美味しくもないご飯ばかりだったからか、久しぶりに人の温もりのある味は身と心に優しく染みる。
改めてこの部屋を見ると、本当に何もない。だけど不自然なほどに全てのものが2つずつあった。椅子、食器、机……
まるで誰かがここに住んでいたように……
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