02.恐怖

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02.恐怖

 扉の外へ出ると先ほどの部屋は廃アパートの1室だった。コンクリートが剥き出しになった階段をコツコツと音を立てて降りる後ろ姿は、どこか悲しそうで何かとてつもないものを背負っているようにも見える。すると、外から警報音が鳴り始めた。 この警報音はハデスが壁の中に現れた時に発令し、鳴ると直ちに市民は近くの地下シェルターへ逃げるよう言われている。私たちは悲鳴を上げながら慌てて逃げる人々の間を通って、先ほどのアパートからほど近い3丁目を走って目指した。 「リネちゃん⁉︎」 突然誰かに後ろから名前を呼ばれた。振り返るとそれは、私が住んでいたところのすぐ隣の住人のおばさんだった。 「リネちゃん、あんた無事だったんだね。今までどこに行っていたんだい、急にいなくなったからみんな心配してたんだよ。それにそっちはハデスがいるんだ。早く避難しなきゃ。」 そう心配そんな顔をしておばさんが言っている間にも、レオはどんどんと進んでしまう。 「あっ………」 「待って」とも言うことができず、どんどん距離が離れていく。 「ほら、早くいくよ。………リネちゃん?」 私は腕をガッシリ掴んで連れて行こうとするおばさんを無理やり振り払って言った。 「私………行けません。」 そう言うと私は踵を返し、レオが向かった方へ走り出した。 「ちょっと!リネちゃん‼︎」 私を呼び止めようとするおばさんを置いて進むと、やっと人ごみを抜けたところにレオがこちらを向いて立っていた。 「遅れるな、早く来い。」 「ごめんなさい。」 レオがこっちを向いて待っていたと思うと、なぜかちょっぴり嬉しくなった。でもその嬉しさは一瞬で吹き飛んだ。 目の前を見ると、大きな化け物を囲って銃を持ったたくさんの人がいた。端の方には負傷した人や手当てをしている人がいて、どれだけハデスとの戦闘が危険なのかを物語っている。 私はごくりと息を飲み、前を進むレオの後に続いた。後ろで指揮を取っていた偉そうな人はレオに気がつくと、深々とお辞儀をして大声でこう通達する。 「全員撤収‼︎」 それを聞くとすぐさまハデスから人が離れ広々とした空間ができ、私たちが今いる場所からハデスまで一本道ができた。目の前には大きな奇声を上げながら暴れるハデスがいる。 記憶していたよりもずっとずっと大きかった。そしてこちらに気がつくと、私たちに向かって威嚇するように口をさらに広げて思わず耳を塞ぎたくなるほど大きな奇声を発した。私の全身に逃げ出したくなるほどの緊張が走る。  ヴィーナスに入ると言うことは、これほど大きな敵と、緊張感に耐えねばならないのか。 改めてハデスと相対することの恐怖を知る。そして気がつくと前にいたはずのレオはもういなくて、腕を振り上げたハデスの真下にいた。 「……‼︎」  それからは一瞬だった。
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