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あれほど大きかったハデスは小さなハンドガンから出た銃声と共に一瞬で黒い灰となり、レオの足元には赤いガラス球のようなものが転がっている。レオはその球に向け1発また銃を撃った。
すると赤い球は「パリンッ」と音を立てて割れ、静寂だけが残った。
「何をしている。ついて来い。」
振り向いたレオは私を見てそう言った。
「は、はい。」
あまりに一瞬のことすぎて何が起きたかわからないが、周りの反応を見るといつものことみたいだった。それよりも私の方に視線が集中している。
「あれ、誰だ?」
「レオさんが見知らぬ女を連れてるぞ。彼女さんとかじゃねえか!?」
「おい、バカ。あの方は……」
どうやら私という存在について噂をしているみたい。ちらちらと私たちを見る周りをレオは全く気にせずに、さっきの指揮を取っていた人のところへ向かう。
「被害者は?」
「ご命令通り、まだ処理していません。あちらの路地にいます。」
年齢だけで見るとレオは16か17そこらなのに、それよりも30歳は上の人がペコペコとしている。あまりにも不思議な光景だったが、さっきの出来事の後ではそれも納得できた。
レオは言われた方向に歩いていく。私は置いてかれまいと駆け足でついていくと、路地裏には横たわっている人が2人いた。親子のようで、1人が父親、1人が小さな10歳くらいの女の子だった。
だけどどこか様子がおかしい。息はしているがとても苦しそうで、ぐったりとしている。レオは冷たい目でその人たちを見下し、持っていたハンドガンを私へと差し出した。
「こいつらを殺せ。」
「……え…?」
私は渡されるがまま銃を握るが銃口は下を向けていた。初めて握った銃は思っていたよりもひんやりとしていて、とても重たかった。
「こいつらを殺すことが、入隊試験だ。」
こいつらと言ってもこの人たちは人だ。ヴィーナスはハデスを殺すのであって人を殺す組織ではない…のにどうして?
そう思っていると、目の前の男の人の腕から謎の黒い物体がぶくぶくと湧き出てきた。それはどんどんのその人を覆い始める。あまりのことで私は言葉を失った。
人間からハデスに変わる姿がこんなにも悍ましいとは思ってもいなかったから。
「早くしろ。さもないと完全にハデスになるぞ。」
もう頭が回らない。今まで私はハデスは化け物としか思っていなかった。だけどこんな場面を見てしまったら、今まで私は何を憎んでいて、これから何を憎めばいいのかがわからなくなる。そして今何をするべきで、何を守るべきなのだろうか。
「……ガイ。ハヤク…コロシ…テ………ゴホッ」
「……っ…」
女の子が声を振り絞って私に訴える。私は必死に銃口をその人たちに向けるが、息が上がってうまく焦点が定まらない。その間にも女の子が黒い物体に覆われ始めた。
早く…早く、殺さないと。
早く、早く、早く、早く………………‼︎
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