仮面夫婦のはずが怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない【書籍化作品】

序章

　だが大知は気にとめる様子はまったくなく、真っ直ぐ佐藤を見据えている。

　未破裂動脈瘤には、三つの治療法がある。

　まずは開頭クリッピング術。そして大知が言う、血管内治療、そして経過観察。どの方法が患者にとって最善かを、さまざまな職種を交え話し合う。

　この患者に至っては、執刀医である佐藤の意見が通りかけたところで、大知のあの発言というわけだ。

「だが、もし破裂したらどうするんだ」

　ムキになって反論する佐藤に、大知は小さくかぶりをふる。

「過去の日本人のデータに基づいて予測される年間破裂率は、一年間あたりわずか五パーセント。糖尿病患者が、術後に高血糖により免疫力が落ち、感染症を併発したり、傷が化膿したりするリスクの方がはるかに高い。そうですよね？　内分泌内科の、高田先生」
「へっ！？　は、はいっ！」

　突然話を振られた、内分泌内科の高田が、怯えたように首を縦に何度も振る。その様はまるで、壊れたおもちゃのようだ。高田は体の線が細く、いつも疲れたような顔をしていることもあり、スタッフから同情の視線が集まる。