仮面夫婦のはずが怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない【書籍化作品】

序章

　
　大知はそんな高田から視線を外すと、再び前に立つ佐藤をまっすぐ見た。

「オペの実績を上げたいのはわかります。でも、何が患者の為かもう少し考えるべきでは。佐藤副部長」

　佐藤は悔しそうに唇を噛みしめるだけでそれ以上、反論しなかった。

　そしてさっきまで大知を揶揄していた看護師や薬剤師も大知の見解に納得したのか、すっかり黙り込んでいる。

　大知は強面な上、歯に衣着せぬものいいのため、冷たい印象を抱かれがちだ。だが誰よりも患者のことを考えている。どんなに忙しくても患者が納得するまできちんと説明をし、とことん付き合う。

　実績・利益そんなもの、大知にとって二の次。佐藤は次の試験で、部長昇進がかかっているため、一例でも多くオペをしたかったのだろう。上司だろうと、目上の人だろうと、間違っていることは間違っていると反論できるところは、大知のすごいところだ。

　佐藤は大知を恨めしそうに見ていたが、大知はすでに他の症例に目を移していた。それがまた、佐藤のはらわたをえぐった。

　カンファレンスを終えると席を立ち、その場を後にする。このあとは、病棟へ回診へ行く予定になっている。