12. わたしたちの「すき」のゆくえ

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 「ねえ、雪成。あたしの小説ノート、まだ持ってる?」  「あ。すまん」  雪成はカバンからあたしの水色のノートを取りだす。  「くまの話、最後にもう一章書き足したくなったから、返してもらえる?」  すると、雪成は思いもよらないことを言った。  「そこ、おれが書いてもいいか?」  「ええ!?」  「言ったろ、希望のない結末だって。おれなら、この先に希望を書くことができる」  「あたしが書いてるんだよ!? 著作権の侵害! そう、著作権の侵害って、こういうことだよね?」  「全面改稿して合作にしないか? ってことで、これは、おれが頂く」  雪成がノートを奪い去るように、ゆるやかなスピードで走り出す。やっぱりほんの少し、右足をかばいながら。  「もー!」  あたしはマスクごしにさけんだ。  「ぜったい追いついてやるんだから!」  今日の小説会議もなかなか終わりそうにないな。  あたしはそう思いながら、雪成のあとを、追いかけた。
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