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「びっくりした~、キヨやん!どうしたん?」
三十分は布の山を眺めていただろう、ようやくリドカさんがこちらに気づいた。
「お疲れ様です。相変わらず忙しそうですね。」
「この通りや、もうそろそろ一人でやっていくにはしんどいかもなぁ~」
笑いながら答える。
「いつでも呼んでくださいよ、手伝いますよ。」
「お前も忙しいやろ~、今日も仕事で来たんとちゃうの?」
仕事柄この辺はよく立ち入るため今日もそう思われたみたいだ。
「いや、それが休みでして。今日は買い物に来たんですよ!」
「そーなんや、休みの日にこっちに来るん珍しいな。いっつもあの文字のところで一日いてるのに。」
この町で暮らしていくのに文字は必要ない。当然彼女も理解していない。ほとんどの人は文字を理解する時間があれば仕事に費やしたほうがはるかに効率的という考え方だ。
「文字覚えるんはそんなに楽しいか?あんなとこお前しか行ってないで?」
「そうですね。文字なんて生活には全く役に立たないのは分かってるんですけどやってみると結構おもしろかったんで。」
とりあえずで答えてみた。実際は何で学んでいたか自分でもよくわかっていない、仕事で役立つときがあるからという理由だった気がするが…。
「それにみてください。今日で卒業したんですよ!」
そう言ってポッケトから石を取り出した。
「なんやこれ?」
「卒業した証なんです。なんかすごそうですよね。」
「これなんかの役に立つん?」
「先生の話では図書館を自由に使えるようになったりするらしいですよ」
「なんやそれ!何の役にも立たんやん。」
確かに何の役にも立たないなと説明しながら思う。
「きっと役立つ時が来ますよ。今はまだないですが」
「まぁ、とりあえずきょうはめでたい日いうわけやな。」
「そうなんです。だから今日はここにお客としてきました。」
そう言うと彼女は笑顔で答えた。
「いらっしゃい!」
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