はじまり

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 思いがけない荷物のせいでこのまま用事を済ましてしまうか、一度帰るか迷う。できればこのまま用事を済ましてしまいたい。腕の中からふくれ出しそうな布団が顔を埋める、柔らかなにおい。結局いい案は思いつかず図書館に戻ることにした。  そういえばまだ食事をしていなかった。朝からただ待つだけの時間があまりにも多かったからかおなかはそこまで空いていない。荷物だけおいて買い物のついでに何か食べていくか、家に帰って夕食を早めにするか。迷っていると図書館には到着していた。    到着して荷物を置かしてもらうことを伝えたがった先生の姿がなかった。いつもは僕が来ることを分かっていたんじゃないかと疑ってしまうくらい、必ずそこにいた。  ここで大きな声をあげるのは御法度、折角マスターした文字を使って手紙でも置いておきたかったが今はペンも無い。どうしようもないから先生の部屋を訪ねてみることにした。  さまざまな模様が彫られた立派な扉、思えばここに来たことは一度も無い。今までは厚い扉の中よりも本の中に興味があった、こうして初めてここに立つと少しワクワクしてきた。日差しはふんだんに入るのか?もしくは大きな暖炉があるのか?どんな家具が置いてあるのか?煌びやかな照明があるかもしれない、立派なおじ鹿角で作られたペンがたくさんあるかもしれない。僕は気持ちを落ち着かせてから扉を三回叩く。    トン、トン、トン。  返事がない。もしくは聞こえてないかも。大きな扉をノックした経験があまりないから力加減がわからなかった。次はもう少し強く叩く。  トン!、トン!、トン!。    返事はない。
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