2 鴻野涼介の章

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【 個の成長とチームの絆 】 たかだか二次予選の強豪でもなんでもない公立校同士の試合。 おそらく俺たちだけじゃなく、奴らも自分たちの新チームはかなりいいセン行ってると思っていて、強豪と言われる名門私立にも引けを取らないだけの自信を秘めていたのだと思う。 実際、有名な進学校にしては驚くほど鍛えられていた。バットスイングは皆シャープで守備も固い。その上、あんな天才ピッチャーが隠れていたのだから自信があって当然だろう。 なのでお互いの認識として、この試合は次戦の相手、星章学園戦に備えた調整のような位置づけだったのだと思う。 それが …… あっちはいきなり大量点を奪われて大慌てとなり、こっちはとんでもない1年ピッチャーの登場に度肝を抜かれてビビらされていた。 互いが相手を過小評価していたこの試合、こんなにも苦戦になるなんて、試合前には俺たちだけでなく、あっちも想像していなかったのだろう。 六回裏 …… 広田特有の逆球のようなシュート。 センター返しのバッティングが引っ掛け気味になってサードを襲う。 打球は速いがサード月島の守備には余裕があった。そして丁寧な送球。軽く腕を振っただけなのに、キレッキレの速球がファーストミットに突き刺さった。 広田のピッチングフォームがさっきの回よりノビノビとして見えた。 キャッチャーが永澤に代わっていた。永澤渉は中学から広田とバッテリーを組んでいる。華高に入ってからも二人はずっと控え組の主力バッテリーだった。 広田のストロングポイントを生かすためのキャッチャー交代。 そして月島がサード、サードの西島がファーストに入った。これで守備は鉄壁だ。 守り勝つための花大采配。 だけどチーム力で勝つ野球を目指す。 亀の初マウンド ……広田の続投 ……キャッチャー交代 ……チームの要、月島瞬の守備交代。 不動のポジションを作らず、勝つための全員野球を尽くす。 〜 おいらは是が非でも勝ちたい、とは考えておらんのよ。勝つために全力は尽くすよ、でも手段は選ぶ 〜 勝ちよりも個の成長とチームの絆が優先。 花大さんは勝負師ではない。 あくまでも教育者なんだ。 いいコースに決まったはずのアウトローのスライダーをきれいにすくい上げられた。 ・・・センター 神谷が鮮やかなダッシュを見せた。 迷いなく一直線に背走し、フェンスの手前でランニングキャッチ。 「よっしゃぁー !」 マウンドの広田が吠える。 三塁側のスタンドが沸き返る。 あまりキレのよくないシュートなのかツーシームなのかわからないけど、一つ球種を加えただけでバッターは迷う。迷うだけでイケイケムードは薄くなる。 今度は真っ直ぐを思いっきり強振された。 ・・・三遊間の強烈な打球 すでに身体は反応していた。 ・・・跳ばずに届く 大きく3歩ダッシュして、4歩目で体勢を低くして小刻みにサイドステップを踏む。 逆シングルから、そのままの体勢でノーステップスロー。 山なりの送球が、タクトの手前で弾んだ。 タクトが身体を投げ出すように前のめりになってボールをショートバウンドで抑えた。 「アウトッ !」 〜 こういう試合に勝ってこそ、チームはより強くなれるんよ 〜 ・・・間に合った
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