2 鴻野涼介の章

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【 今はとにかく 】 高校野球秋季大会(新人戦)  二次予選三河ブロック1回戦  華 原 |510100000|7 豊橋北 |00004002 |6 次戦はあの星章学園。 星章相手だってこのチームなら闘える。勝機は充分にある。攻走守に魅力的な素質が揃ってるし、俺たちには藤沢慶がいる。 星章に勝てば県大会出場が現実味を増す。 それでもまだまだ先は長い。 こんなところで負けてる場合じゃない。 おそらく ……北高も同じことを思っている。 いいメンツが揃ってるし、俺たちには千堂がいる ……と。 なので北高も星章戦に備えて千堂を温存した。 今ならわかる。千堂はまるでモノが違う。 もし昨日、亀の才能に気づいていなければ、俺たちは左腕のサブマリンという不慣れなピッチャーに苦戦していたかも知れないし、予定通り広田が先発していたらスライダーが通用せず早々に失点していたかも知れない。 亀がいなければ、千堂を温存した北高にあっさりと敗退していたかも知れない。 9回表。 速球に強い永澤が振り遅れ、ミート力の高い杜のバットが掠りもせず、選球眼のいい倉科が2打席連続で見送り三振に終わった。 最後の攻撃も三者三振。 ちょっと信じられないほど凄いピッチャーだった。 チームメイトの打力というのは毎日のバッティング練習の中で自分と比較して推し量る。 俺はスイングスピードで永澤に負けてるし、ミート力で杜に負けてるし、選球眼は倉科に敵わないと思っていた。 そうやってチームメイトを意識しながら、それぞれに刺激を受けて切磋琢磨している。 そんな中で、チームメイトが手も足も出ない打席を見せられると、内心心が折れる。認めたくないけど、負けを認める状態に陥ってしまう。 ・・・俺はぜんぜん努力が足りなかった ・・・今はとにかく守り抜く しかない。 9回裏。 先頭打者が初球のカットボールを簡単に打ち上げた ……ヒョロっちー打球がファースト後方にポトンと落ちた。 ノーアウト一塁。 次のバッターの送りバント ……打球に変な回転がかかって、一塁線上にボールが止まった。 ノーアウト一塁二塁。 次も送りバント ……前進してボールを掴んだ西島がライン上でバッターランナーに接触。 “ 走塁妨害 ” ノーアウト満塁。
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