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【 シーズンオフ 】
秀才イメージしかない高偏差値校相手に序盤に大量リードしたにもかかわらず、途中から出て来た1年生ピッチャーに手も足も出ず、大逆転負けを喫した。
あの敗戦でチームは心に大きなダメージを負っていた。
“ 俺たちの代は強い ” の自信はあっけなく崩れ、“ あの進学校に負けるようでは …… ” と、周囲の熱も一気に冷めたのがはっきりと感じられた。
そして汚名挽回の機会もないままシーズンオフに突入。俺たちは自信を失ったまま長い冬を過ごすことになったのだが ……
基本、俺たちはなんだかんだ明るく前向きだった。それはプラス思考の塊のような月島、神谷の影響が大きかったし、イジられキャラの亀の存在もチームの雰囲気を明るくしていた。さらに監督が、真っ先に弱音を吐くキャラなので、不思議と選手の方が自立発奮する形になってしまう。
そんな中で、あの千堂が無双状態のまま秋季大会で快進撃を続け、甲子園まで掴みとってしまった。
それはダメージを負った俺たちには、この上ないモチベーションとなった。
俺たちはそれぞれが、つらく長い冬を、無意味なオフにしないよう個々のスキルアップに徹底的に取り組んだ。
その根底には花大さんが目指すチーム戦略が3つあった。
1 ー センターラインの強化。
永澤を正捕手に指名し、ショートの俺、セカンド杜、センター神谷のラインを軸としたチーム作りを核とする。
2 ー ピッチャー4人体制の確立。
正捕手を外れた月島瞬を4人目のピッチャーに指名。元々、150キロを計測したこともあるチームいちの強肩でコントロールもいい。
コントロールが不安定な亀、ピッチャー初心者の月島を、理論派の慶がアドバイスする形で夏までに二人を戦力化し、慶とタカヤの負担を分散させる。
3 ー 機動力野球。
特に足のある神谷、亀、杜、俺の4人は走塁技術、進塁判断力を磨く。チーム全体で進塁打意識を徹底させる。
とにかく足で1点をもぎ取る攻撃オプションを作る。
花大さんは “ 凄いピッチャーが相手でも、最少得点で勝ち切れるチームを作るでやんす ”と無愛想に語った。
“ 俺たちは投手力のチーム ”
この時になってやっと俺にも“ 3年を主体としたチーム作り”の真意が分かった気がした。それは単なる上級生贔屓ではなく、その代その代でまったく違うコンセプトのチーム作りをするという意味だったのだ。花大さんは2年間、じっくり観察した上で、そのメンツの特長を最大限に生かすチーム作りをしてきたのだ。
俺たち野手は個々のスキルアップに挑みながら、4人のピッチャーとの信頼関係を深めていった。
そして3月、春の選抜甲子園。
あの千堂宣之が関西の強豪校相手にノーヒットノーランを遂げた。
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