2 鴻野涼介の章

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【 バットスイング 】 家から自転車で20分。カゴに放り込んだバットが道を曲がる度にゴロゴロと動く。 6時、万津(よろず)公園に着いた時にはもう明るくなっていた。 自転車から降りてすぐに鉄棒にぶら下がる。 完全に脱力して真っ直ぐに伸ばした状態からゆっくりと身体を引きあげる。 ポイントとなるのは肩甲骨。腹、肘の使い方を意識して、肩甲骨を引き下げつつ、内側に寄せるイメージを持つ。 身体を引き上げる間、肩はずっと引き下げておく。常に一定の速度で引き上げる。腹は前に突き出すようにして、背すじを反らせる。背すじを反らせて、左右の肩甲骨を寄せる。引き上げるときに、肩甲骨は下がって、内側へと閉じていく。肘は常に体側の後方に留める。肘を曲げて身体を上げるというより、肘をカラダの後方へと引くように意識するといい。 筋力があがると、バットスイングが速くなった。スイングが速くなると打球速度があがり飛距離が伸びた。 そうなって初めて、凄いヤツのバッティングと自分を比較するようになった。 やはり月島、神谷のバットスイングは凄まじかった。 二人を意識しだして気づいた。背中の筋肉が凄かった。改めて鏡で見て愕然とした。俺の背中なんてまるで子供だった。 背中は懸垂で鍛えられる。 それは聖愛先生の本を読んで知っていた。 あの日、タケルと会った小さな公園には大人がぶら下がれるほどの鉄棒があったことを思い出した。 春休みは起きたらすぐにここに来て、懸垂で背中を鍛えることにした。そして充分に身体を温めたら、あとはひたすらバットを振った。 ただバットを振ってもボールが打てるようになるとは思っていなかった。それは空振りの練習でしかない。 素振りの目的は自分のフォームを直し、作り、固める事とスイングに必要な筋肉を鍛えスイングスピードを上げることにあると思う。 時々、スマホで動画を見て気分を上げる。 やはり大沢秋時のバットスイングは真似たくなる。背が伸びてパワーが上がれば上がるほど憧れは強くなるような気がした。 結局俺も、兄貴と同じことをやっている。 「おはよう」 動画に魅入ってたらタケルが突進して来た。
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