2 鴻野涼介の章

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【 高3の春 】 〜 日本の自衛隊は世界中で唯一、殺した人間の数より助けた人間の数の方が多い武装集団なんだ 〜 酒の力を借りて、やっと言葉にした親父の誇り。 〜 軍隊の厳しい訓練をやりながら、さらっと災害救助をするところがかっこいいんじゃない 〜 茶化す姉貴たちに向けた、おふくろの柔らかなドヤ顔。 今でもはっきりと思い出せるあの時の二人の表情。 ここに来て2年が経った。 その間、身長が20センチ以上伸び、体重が15キロ以上増えていた。 “ 自衛官になる ” 今まで、ただぼんやりと思っていたことだけど、高3になって進路の話題が身近になると、自分にはそれしかないと思えた。 以前なら身体も小さかったし、体力的な不安が付き纏っていたけど、今はそういった不安はなかった。たぶんもうハードな環境でもフィジカルで落ちこぼれることはない。 藤沢の叔父さんは、大学進学を強く望んでいた。それが親代わりとしてのひとつの使命であると考えているのだろう。“ 家族が残したお金を涼介の未来のために生かして欲しい ” とも言われた。気持ちは充分に分かっていたけど、防衛大学を目指すだけの頭もなかったし、ふつうの大学に通うイメージも湧かなかった。 何よりも卒業したら藤沢の家を出たかった。何の気兼ねもない豊かな生活。それを与えてくれた叔父さん、叔母さん、慶、紗ちゃんには感謝してもしきれない。でも藤沢家にとって、俺はいつまで経っても気兼ねさせてはならない存在なのだ。 もう充分過ぎるほどのものを貰った。あとはしっかりとした自衛官になって、頼もしい親戚だと感じて貰えるような大人になることが俺の恩返しだと思う。 そう決めたらずいぶんと気が軽くなった。 そう決めたら野球が益々楽しくなった。野球がこんなにも楽しいと思ったことなんて、これまで一度もなかった。 チームメイト個々のレベルアップが頼もしく、ワクワクするような喜びがあった。 俺自身もバットスイング、打球や送球のパワーアップをしっかりと実感出来る日々だった。 春季大会。 夏の甲子園予選の前哨戦。 県大会でベスト8に残れば、夏のシード権が得られる。シード校は初戦が2回戦からなので1試合少なくなる。そして準々決勝まで強豪校と当たらないことになる。強豪に比べ選手層の薄い俺たちには絶対に欲しいシード権だった。 華高のチーム力は相当あがっていた。 特に投手力は名古屋の強豪にも引けを取らないと思えたし、中でも月島の成長が凄いことになっていた。 地区予選東三河ブロックの4試合。二次予選三河ブロックの3試合の計7試合。 4人の投手陣は1点も許さず、打線は全試合大量得点での勝利だった。 俺のバッティングも好調だった。 地区予選7試合、25打数20安打 ……打率8割。 内、長打が13本でホームランが3本あった。 しっかりと勝利につながるバッティングが出来ていた。 俺たちは無敗 …三河ブロック1位で県大会に進んだ。
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