2 鴻野涼介の章

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【 よくわかってる 】 華原の街も … 学校も … チームも … そして俺自身も … えらく盛り上がった春だった。 その中心人物 …… 秋山百合が17歳で全日本を制した。 すでに世界ランク47位、夏にはウインブルドンの出場権も得ている。次のオリンピック出場も間違いないと言われていた。 もう日本国民が認める超ビッグなスーパースターだった。 そして …… 成瀬千波が県のチャンピオンになった。決勝は堪えに堪えた末の逆転優勝だった。 今、成瀬にもプロ転向の話があるらしい。 成瀬からは時々ラインは来てたけど、取ってつけたような簡単な返信しかしていない。何て返していいのか分からなかったし、元々成瀬とは住む世界が違う。優勝を知った時、嬉しくて震えが止まらなかった …けど、お祝いのメッセージも送れないでいた。 さらに …… 華高躍進はテニスだけでなく、女子バレー部が県大会ベスト4、陸上部女子400メートルリレーの全国大会出場とか、この春ウチの高校は女子の活躍で一気に全国区になっていた。 「男子も負けるなー !」 高校野球、春季愛知県大会二回戦。 予選ブロック1位だったのでシードされた俺たちは今話題の華原高校として、地元の注目が一番集中するタイミングで初戦を迎えることになった。 勝てば県のベスト8。 夏のシード権がかかる大事な一戦は、新人戦で対戦が叶わなかったあの星章学園が相手だった。 シード権が欲しいのは星章も同じ。 私学4強 …… 中京大中京、愛工大名電、東邦、享栄。 愛知県では半世紀以上に渡り、この名古屋の4校が圧倒的に強く、県内の他の高校にとっては甲子園出場への高い壁として長年に渡り立ちふさがるというという構図が続いていた。 この4校が夏の県予選でシード権を失うことはまずない。シード権を得るということは、この私学4強と準々決勝まで当たらないことを意味する。星章学園こそ私学4強に次ぐ強豪校としてシード権の重要性をずっと痛感してきたはずだ。 相手が東三河の弱小であろうとベストメンバーで全力で倒しにくることは簡単に想像出来る。 華高のラインナップがアナウンスされていた。 『1番セカンド、杜那央也君 背番号4』 『2番センター、神谷隆之介君 背番号8』 『3番ショート、鴻野涼介君 背番号6』 『4番サード、月島瞬君 背番号10』 『5番レフト、広田峻也君 背番号9』 『6番キャッチャー、永澤渉君 背番号2』 『7番ファースト、西島拓登君 背番号5』 『8番、ピッチャー、藤沢慶君 背番号1』 『9番ライト、亀石智也君 背番号13』 スタメンは全員が3年生。ベンチ入りメンバーも全員3年。しかも4人のピッチャーが全員スタメンに入っていた。 花大さんが掲げる “ 3年主体のチーム作り ” もしかして偏った考え方なのかも知れない。 でも、このメンバーは一生ものだと心底思えた。 このキラキラした場所の中心メンバーとして俺なんかがここにいる。 こんな華やかな場所に … 俺だけ生き残って …… 俺だけ煌めきの中で生き続けている。 よくわかってる …… あの両親だったから、健康優良児のままこんな立派に成長出来た。 あの姉貴がいたから、ショートポジションを任されるほど上達出来た。 あの兄貴がいたから、1番だって3番だって任されるほどパワーとスピードが身についた。 4人がいたから、チームメイトに信頼されるような選手になれた。 よくわかってる。 試合が始まった。
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