2 鴻野涼介の章

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【 ポジショニング 】 快晴。 4人のピッチャーの仕上がりはよさそうだし、全体的に打線の調子もかなりいい感じだった。ついでに俺のコンディションも最高。なので柄にもなく試合前からワクワクしていた。 熱田神宮球場。 収容人員は13000人くらいらしい。 スコアボードの表示 ……気温17℃、風速2m。 絶好の野球日和。 バックネット裏から内野席まではほぼ満員。 一塁側を埋め尽くしたコバルトブルーのメガホン。華原市から90キロも離れたこの球場に、驚くほどたくさんの応援が来ていた。 ショートのポジションに立って、改めてこの光景を見ると “ 畏れ多い ” とか “ 勿体ない ”という感情の方が先にきた。もう “ 照れくさい ” とか “ 恥ずかしい ” といった感情は遠い。 慶が淡々と投球練習をしていた。 スタンドにはプロのスカウトも来ているらしい。目当ては星章の剛腕後城(ごじょう)か、慶か、月島か。 俺には関係のないことだけど ……慶や月島が輝けるようなプレーをしたいとは心底思っていた。 大きくて美しいグラウンド。 鮮やかな緑色の上に立ってみた。さっき水を撒かれたばかりの天然芝が柔らかい照り返しを放っていた。 黒と緑のコントラスト ……内野と外野の境目に小さな段差があった。思ったより芝が深い。軽くジャンプしてみた。やはり柔らかく感じる。二歩踏み出して土の上に立つ。硬めの黒土が心地よかった。 ショートのポジショニングについては1球1球、さまざまな要素を総合的に判断して変えていた。試合の中で1度として同じポジションで守ることはない。基本的には後ろ目にポジションをとり、左右の打球に対して斜め前に出ながら守るようにしている。捕球と送球をセットとして、スローイングを考えて打球に入っていくことが大切だと思っていた。 予測と動き出し ……結局、フットワークを活かすも殺すもそこに尽きる。 主審の右手が上がった。 芝の2歩手前の位置で構えた。 特にランナーがいない時は、意識的に深めのポジションをとるようにしている。深ければ打球を追いやすいし、周辺のポジションのカバーにも入りやすい。1塁までの送球が遠くなるけど、強いスローイング練習は嫌というほどやってきた。 セカンドゴロ …セカンドフライ …サードゴロ。 慶はストレートを1球も投げずに初回をわずか7球で終わらせた。
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